「愛の不時着」北朝鮮に温かなまなざし 自信つけた韓国

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聞き手・大内悟史
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 韓国ドラマ「愛の不時着」の人気が続くなか、朝鮮半島の南北分断を決定的にした朝鮮戦争勃発から6月25日で70年を迎えた。民族分断の悲劇を恋愛劇に昇華させた作品からは、韓国の北朝鮮に向けるまなざしの変化が感じ取れると指摘する、ハン・トンヒョン日本映画大学准教授(社会学)に聞いた。

 ――在日コリアンの立場から日韓両国の社会を見てきたハンさんは、「愛の不時着」をどう見ていますか。

 ドラマを駆動させているのは「2018年4月の南北首脳会談後の想像力」だと思います。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長はこの年、計3度の会談を重ね、トランプ米大統領と金氏による初の米朝首脳会談も実現。朝鮮半島に和平の機運が高まり、韓国国民はこうした様子を伝える映像、特に、ときには南の民間人も同行した平壌や白頭山板門店からの中継をネットやテレビを通じて繰り返し目にし、SNSなどで身近な話題にすることで、国を挙げたメディアイベントの参加者となりました。

 韓国にはいまだに北の人間との接触を制限する国家保安法があります。メディアを通じて報道されたり、これまで映画やドラマのなかで描かれたりした南北の人々の出会いは、公式に許可された政治家やスポーツ選手、または任務中の工作員や軍人同士でした。でも、2018年の南北首脳会談を経て、この作品のように何かの偶然があったり、たとえば第三国でだったら、そうでない民間人だって出会えるし恋に落ちることだってありえるかもしれないという想像力を持てるようになった。その意味で、主人公の2人以上に、北朝鮮の村の女性たちや中隊の兵士たちといった「一般人」とその生活が描かれたことが画期的だと思いました。現実が一歩進んだからこそ、想像力も一歩先に進めることができたのでしょう。

 そうした想像力を支えているのは、脱北者などを通じた韓国における北朝鮮研究の蓄積です。たとえば北側の主人公の婚約者の母親は、おそらく自ら財を成した新興富裕層です。経済的な苦境のなか、北の女性たちの多くが職場から疎外されたからこそ家族を支えるために市場経済に参入していった、という実際の経緯をモチーフに取り込んでいるのでしょう。このように、リアリティーとファンタジーのさじ加減の絶妙さがこのドラマの特徴であり魅力だと思います。韓国エンタメはこうして現実の歴史や社会的な出来事を盛り込むことに躊躇(ちゅうちょ)がなく、ときに失敗もしますが、何でも取り込んで面白いものを作ってやる、という志の高さのようなものを感じます。

 ――朝鮮戦争勃発から70年が経ちますが、北緯38度線をはさむ南北関係は大きくは変わっていないようにも思うのですが、そうではないということですか。

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 民族分断の固定化から長い年…

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