第7回明石商、例年と違う「負けられぬ」 3年生全員で全勝へ

102回目の夏

大坂尚子
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 長い休校と分散登校が明け、全体練習が再開された。6月15日。明石商の狭間善徳監督は、3年生39人を集めて言った。「苦しい練習をしてきたなかで、最後の発表の場だ。明石商はこんなチームなんだぞって見せつけて終わろう」

 分散登校中に兵庫の独自大会が決まった。決勝まではできないが、勝ち続ければ少なくとも4試合は戦える。主力十数人を固定し、ほかを試合ごとに入れ替えると決めていたが、狭間監督は3年生に希望を聞きたかった。「どの試合に出たいか、自分らで決めや」。A4用紙を1枚、主将の来田(きた)涼斗(3年)に手渡し、その場を離れた。

 来田は前日、3年生のグループLINEで「考えておいて」と伝えていた。この日、一人ひとりの希望を確認した。10分ほど、ワイワイと話し合い、締めの一言を口にした。「全員で試合がしたい」。その言葉に3年生の顔つきが変わる。「よしっ」と力強い言葉が返ってきた。

 外野手の下山峻平(3年)は、地元・尼崎のチームと試合ができる可能性のある「4試合目」を希望した。今までベンチ入りしたことはない。例年なら6月末にあるメンバー外の3年生向けの対外試合に出て区切りをつけ、レギュラー陣のサポートに回っていてもおかしくなかった。だが、新型コロナウイルスの影響でそれもなくなった。「この時期にみんなで練習できるのは変な感じ」とうれしそうに話す。

 勉強と野球を両立してきた。監督も「一生懸命」と認める努力家で、休校中は時間を有効に使った。「勉強と運動の割合は2対1。体を動かしてから勉強すると気分が乗った」。将来の夢は公認会計士情報処理や電卓などの検定試験に合格して、特別推薦での大学進学をめざしている。

 練習もおろそかにはしない。朝早く来て図書室で勉強したり、通学の計2時間で英単語を覚えたり工夫する。「気持ちがあやふやなのは失礼。練習は全力でやる。そして大会ではフルスイングしたい」

 昨年春夏ともに甲子園4強入りした公立の強豪校。部員数は100人を超え、来田や最速151キロ右腕・中森俊介(3年)らプロ注目の選手も所属する。

 中森はコロナ期間に自分と向き合った。選抜大会で結果を残すのが目標だった。だが、自らの力を試す大会が中止となり、プロ志望か大学進学かで揺れる。「休校中は監督やコーチに課題を見てもらうこともなかった。自主練で納得しても、いざ全体練習が始まると不安ばかり」。実戦を重ねることで、少しずつ不安を解消している。

 日本一を目標に厳しい練習に明け暮れた部員にとって、頂点をめざせない独自大会に複雑な思いもある。ただ、狭間監督は例年とは違う期待もしている。「2年ちょっとやってきた成果を出す場にしたい。次の試合に出る人のことを考えれば、いつも以上に負けられない気持ちになると思う」

 来田は3年生の気持ちを代弁する。「全員で戦う。残された試合、全勝でいきたい」。さまざまな思いが交錯して、特別な夏を迎える。(大坂尚子)

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 〈夏季兵庫県高校野球大会〉 7月18日~8月7日、県内14球場で開催。5地区(阪神、神戸、播淡、西播、但丹)ごとのトーナメントで16強を選び、再度抽選。8強で打ち切る。県高野連に加盟する162校のうち、158校156チームが参加予定。ベンチ入りは20人だが、3年生の多い学校に配慮して試合ごとの選手変更は可能。一度外れた場合の再登録は認められない。

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