WHOは中国寄りですか?グローバルヘルス研究者の答え

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聞き手 ヨーロッパ総局長・国末憲人
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 新型コロナウイルスパンデミック(世界的流行)が如実に示したのは、国境を越えた感染症対策の重要さ、そしてその難しさだ。得られる教訓は何か。国際協力をどう進めるべきか。国境を越えて保健衛生の向上に取り組む「グローバルヘルス研究」の分野を開拓した政治学者、イローナ・キックブッシュ氏に聞いた。(聞き手 ヨーロッパ総局長・国末憲人)

イローナ・キックブッシュ氏

Ilona Kickbusch 国際・開発研究大学院グローバルヘルスセンター議長。1948年、ドイツ生まれ。WHO健康推進部長、米エール大学教授などを歴任。邦訳著書に「ヘルスリテラシーとは何か?」「ヘルスプロモーション」など。ジュネーブの国際・開発研究大学院にグローバルヘルスセンターを開設し、昨年まで初代センター長を務めた。現在は同大学院非常勤教授、英国際問題研究所招聘(しょうへい)研究員。

 ――新型コロナウイルスの感染拡大に、各国は様々な対策を取りましたが、一方で国ごとにばらばらに対応し、国家間の協力に欠けていたのではないですか。

 「実際には各国の専門家レベルの連携は順調です。彼らの多くは、同じ大学に身を置いて切磋琢磨(せっさたくま)し合った経験を持っている。そこには米中対立など、うかがえません。米中の感染症対策部門は毎日のように電話で連絡を取り合っているほどです」

 「問題は、政治指導者です。パンデミックが起きるとすぐナショナリズムに走ろうとする。医療物資をかき集め、国境を閉ざす。こうした意識をどう超えて、国際協力の枠組みを整えるか。これからの課題です」

 ――従来の協力態勢はどうだったのでしょうか。

 「5年あまり前に起きたエボラ出血熱のアウトブレーク(感染爆発)の際は、オバマ政権の米国が明確な指導力を発揮しました。この出来事を世界的な課題と位置づけ、米疾病対策センター(CDC)などの機関が現地にスタッフを派遣し、解決に取り組みました。米国に今、そうした認識はありません。この違いは大きい」

 ――トランプ政権は感染症への関心が薄いと。

 「『グローバルヘルス』の重要性を現在の米政権は理解していません。二国間協力は続いていますが、多国間の枠組みにかかわろうとしないのです。その結果、CDCの活動も鈍りました。感染症対策は米国で、安全保障の一環と見なされてきましたが、そのような認識も薄らぎました」

 「同様の傾向は英国にも見られます。かつて米英はともに、グローバルヘルスを安全保障にかかわる問題と位置づけて体制を充実させてきました。しかし、政治的決断がなされなかったり、時機を逸したりした。その結果が、(新型コロナの被害が大きい)両国の現状につながっています」

 「世界の感染症対策も、米中の対立の中でかすんでいます。本来ならこの分野で主要な役割を果たすべき両国が、非難し合う状態です。特に米国は国際協力自体に消極的で、その要となってきた世界保健機関(WHO)を『時代遅れだ』と攻撃しています」

ここから続き

 ――WHOに対する批判は他…

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