「気になることが」NHKかんぽ報道、続編放送の舞台裏

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藤田知也 河村能宏
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 かんぽ生命保険の不正販売が社会問題化した昨年6月下旬から1年。不正の疑いを最初に報じたNHK番組「クローズアップ現代+(クロ現)」は、かんぽ問題の続編放送を模索しながら、なかなか実現しなかった。その舞台裏でなにがあったのか――。

 「気になることがあるんですよ」

 かんぽ生命の不正販売問題の取材を進めていた昨秋以降、複数のNHK関係者から同じように打ち明けられた。彼らの「気になること」とは、クロ現の2018年10月30日放送回の制作過程だった。

 クロ現はこの回で、「あなたの資産をどう守る? 超低金利時代の処方箋(せん)」と題し、金融商品をめぐるトラブルや対策を特集した。複数のNHK関係者によると、当初は18年4月に報じたかんぽの不正問題にも触れる方向で現場側が検討していたが、結果的にはまったく触れていなかった。

18年4月に不正実態スクープ

 クロ現は同年4月24日、かんぽの不正実態をスクープした。放送後も情報提供が相次ぎ、続編に向けた取材がスタート。8月10日の放送予定を見据え、7月には2本のネット動画を公開した。取材結果を一部明かしつつ、情報提供も募る内容だった。

 だが、公開直後に郵政グループ3社長連名の抗議文が届く。「詐欺まがい」「押し売り」などの言葉が名誉毀損(きそん)だとして動画の削除を要求。動画公開前に郵政側への取材や通告がなかった点も問題視した。番組側は動画を修正して郵政側と交渉したが取材は拒否され、8月初めに放送延期を決めて郵政側にも伝えた。

 さらに、続編延期から2カ月後の10月5日、郵政側は取材交渉時の番組幹部の発言に問題があったとして「ガバナンス(企業統治)の検証」を要求。NHKの最高意思決定機関である経営委員会はその意を受け、10月23日にNHK会長を厳重注意処分とし、事実上の謝罪文を11月6日に郵政側に届けさせた。

 経営委を巻き込んだ動きは、1年後の昨年9月の毎日新聞報道を機に表面化した。

半年後の放送回、「郵便局」に触れず

 NHKも昨秋、一連の経緯を番組HPで公表。ただ、厳重注意処分の1週間後の18年10月30日の放送については触れていない。

 NHK広報局は今年4月の取材に「18年10月30日の番組は全国の金融機関に金融商品トラブルの緊急アンケートを実施し、消費者目線で気を付けるべき点などを紹介したもので、かんぽ生命も9月下旬にアンケートを送付している。10月上旬に協力は断られ、取材も行っていない」と回答した。

 確かに番組ではアンケート結果が紹介されていた。一方で、独自取材したJA共済の不適切事例を報じ、同番組が過去に保険や投信の販売トラブルを扱ったことにも触れた。かんぽ問題に触れなかったのは、アンケートを断られたからなのだろうか。

 取材を進めると、10月30日の放送後、番組で「郵便局」に触れなかったことへの疑問の声が現場側で出ていたことがわかった。

現場から不満、労組側が聞き取った経緯が3枚の紙に

 「『郵便局 不適正営業問題』放送延期の経緯」。こう題した3枚の紙を、朝日新聞は入手した。日付は18年11月29日。NHKの労働組合の下部組織である分会が、同年にクロ現の続編放送が見送られた経緯を、現場側から聞き取った内容として資料にまとめたものだ。労組関係者によると、現場から不満の声があがったことがきっかけという。

 クロ現のかんぽ報道は大型企画開発センターの統括チーフプロデューサー(CP)のもと、制作局の現場スタッフ数人が中核を担った。資料には8月の続編見送りと、その後も「10月30日」の放送を検討していた経緯が記されている。

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 資料では、8月7日の統括C…

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