米山正寛
近所の公園や遊歩道でサクラやクワの木に赤黒い実がなっている。コロナ禍で遠出は控えてきたが、各地の山や里でも、こうした実りが多くの動物たちの胃袋を満たしているはずだ。植物にとって、それは動物たちの力で種子を遠くまで運んでもらうことを意味する。
拡大するヤマグワの木に登って実を食べるツキノワグマの親子=直江将司さん提供
種子散布を通して動物と植物の関係を研究してきた森林総合研究所の直江将司主任研究員たちは4年前、「山を登るクマが垂直方向の種子散布でサクラを地球温暖化から救う」という
を発表した。東京都奥多摩町の山で哺乳類の糞(ふん)を拾い集め、そこに含まれる種子を調べた。
拡大する満開の花を咲かせるカスミザクラ=直江将司さん提供
初夏に結実するカスミザクラに注目すると、最も多く種子を運んでいたのはツキノワグマで、次はテンだった。種子に含まれる酸素の安定同位体比を調べると親木があった標高を推定できる。そして糞の発見場所との標高差を求めると、平均でクマは307メートル、テンは193メートル、高い場所へ種子を運んでいた。
拡大する野生のサクラの実。これはタカネザクラ=直江将司さん提供
温暖化が進むと野生のサクラの生育適地はより高い場所へ移るため、クマやテンが種子を運ぶのはサクラを守ることになる。初夏に実がなるヤマグワなども、同じ恩恵を受けているだろう。当時、この話題を多くのメディアが取り上げた。
拡大するたくさんの実をつけたヤマグワ=直江将司さん提供
■逆にサルナシは衰退…