排除ばかりでは自己崩壊 コロナも紛争も免疫で読み解く

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西正之
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 ウイルスや細菌などが体内に入ると、それを異物とみなして攻撃し、体を守る「免疫」。医学の概念だったこの働きを、免疫学の大家・多田富雄は人間や社会を考える枠組みに広げてみせた。著書『免疫の意味論』は、現代社会を覆う難題を解くヒントに満ちている。キーワードは、免疫作用の「排除」「寛容」だ。

 「科学が急速に進展するときは、次々に出現する現象の面白さに目を奪われて、生命という大きなコンテキスト(文脈)の中での意味を問うことを忘れてしまう」。免疫学者・多田富雄(1934~2010)は、93年に刊行した『免疫の意味論』の執筆のきっかけをそう記した。

 ここでいう「科学」は今ならIT化にも置き換えられるだろうが、当時の多田の頭にあったのは脳死論議だ。人間を部分でなく全体でとらえるまなざしが足りないのではないか――。そんな多田の生命や人間へのアプローチとして「免疫」という生命現象の意味を問い直した作品だった。

言語、大都市、国家の成立にも通じる

 「20世紀後半、科学の世界では物理学に代わって生物学への注目度が高まりました」と、文筆家の吉川浩満さん(48)。同じ頃に養老孟司『唯脳論』、中村桂子『自己創出する生命』と生命を題材にした論考が相次いで出版された。「これらの作品は人間や生命に対する一般の人のものの見方を更新しました。中でも『免疫の意味論』は、医学用語だった『免疫』を、自己や人間とは何かという思想に広げたのです」

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 免疫は、感染や病気から身体…

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