ボートピープル出身の美術家が映す、国家と個人の物語
ベトナム出身の現代美術家ヤン・ヴォーの日本の美術館で初となる個展が、大阪・中之島の国立国際美術館で開かれている。個人と集団の歴史、戦争、宗教、セクシュアリティー。さまざまな文脈に位置づけられながらも決して声高に語らない作品群は、見る者の視点の移動とともにその意味合いを変えてゆく。
1975年生まれのヴォーは4歳の時、家族とともに父手作りのボートで社会主義体制に移行したベトナムを脱出し、難民キャンプを経てデンマークへ移住した。大人になった作家は自身の生い立ちを規定したベトナム戦争にまつわる品物をオークションなどを使って収集し、作品に取り込む。
例えば、73年にパリ和平協定が調印された建物を父とともに訪れ、入手したシャンデリア。米国のベトナム戦争への介入を進めた当時の国防長官、ロバート・マクナマラの椅子は解体され、木材や布、馬の毛の塊などの「もの」として鎮座する。マクナマラの息子の農園から切り出された木材は、通奏低音のように展示室に点在している。戦争の記憶を介して、世界史を動かした側と翻弄(ほんろう)された側、2組の父と息子の個人史が交錯する。
マクナマラは第2次世界大戦…
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