再委託先「人手確保難しく」 FNN・産経世論調査不正

定塚遼 大野択生 高井里佳子 黒田健朗 宮田裕介
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 フジテレビと産経新聞社は19日、FNN(フジ系28局によるニュースネットワーク)と同新聞社が合同で行う世論調査で、実際には電話をしていない架空の回答が含まれる不正が見つかったと発表した。不正は2019年5月から20年5月までの世論調査計14回で見つかり、両社はこの世論調査結果に基づく放送と記事を全て取り消した。記録などから、不正は総調査件数の約17%を占めるという。

 発表などによると、調査業務を委託されていたアダムスコミュニケーション(東京都)が約半分を再委託していた日本テレネット(京都市)の管理職社員が不正を主導した。実際に得た回答の居住地や年齢などを変える方法で架空の回答を作成していた。調査に対し、この社員は「派遣スタッフの電話オペレーターの確保が難しかった」「利益向上のためだった」「社内のほかの人たちも手伝った」などと説明したという。

 世論調査は、内閣支持率新型コロナをめぐる対策など、政府の対応の評価などを尋ねるもので、毎回全国の18歳以上の男女約1千人が対象。不正は各回で100件以上、14回分で計約2500件に上るという。

 フジテレビによると、同社は昨年5月に世論調査の委託先を変更してアダムスコミュニケーションと契約。その際、調査を再委託する際には、フジ側に報告・相談するという取り決めにしていたが、実際はフジ側に報告がないまま、1回あたり約半分の500件ほどが日本テレネットに再委託されていた。フジテレビは問題が発覚して初めて再委託の事実を知ったという。

 フジテレビは「委託先からの不正なデータをチェックできず、誤った情報を放送してしまった責任を痛感しています。今後調査・検証を行い、しかるべき処置を行います」、産経新聞社は「報道機関の重要な役割である世論調査の報道で、読者の皆様に誤った情報をお届けしたことを深くおわび申し上げます」とコメントした。

 一方、発覚の経緯や、架空の回答を除いた場合の世論調査結果についてフジテレビは「答えられない」としている。

 日本テレネットでは、朝日新聞の取材に社員が「社内の幹部は会議を開いているため、対応できない。調査、確認を進めている段階だ。詳細が確認でき次第、公表させていただく」と話した。(定塚遼、大野択生、高井里佳子)

「メディアの存在自体が問われる」

 国民の声を伝える指標として、政権運営にも影響を与えることの多い世論調査。今回、FNNと産経新聞社の調査に不正が発覚したことで、メディア全体への不信が広がるとの懸念の声が上がっている。

 毎日新聞社などと共同で世論調査会社を設立した松本正生・埼玉大学社会調査研究センター長は、「世論調査はメディアへの社会的信頼で成り立っている『公共財』だが、今回の件でその信頼をみずから傷つけた」と懸念する。

 かつてはメディア各社は自社で対面調査をすることが多かったが、近年は外部への委託が増えた。また、今回の不正の背景には、知らない人からかかってくる電話への抵抗感が強まっていることなどから、電話調査の回収率が下がっていたこともあるとみる。「求められる数を集めるため、今まで以上に電話しなければならず、かさんだコスト分を埋めるために架空のデータをつくってしまったのではないか」

 立教大学の砂川浩慶教授(メディア論)は、不正が発覚したのは、新型コロナをめぐり、政策の是非を問うための指標として世論調査への関心が高まっていた矢先だったと指摘。「そこに不正があれば何を信じていいのかわからなくなる。世論調査が価値尺度として機能しなくなれば、国民が世の中を知るための情報がゆがみ、偽ニュースが横行しやすくなる。メディアの存在自体が問われる事態だ」と語った。

 日本世論調査協会の小林康有事務局長は、「世論調査は各社情報の機微に触れる部分があり、透明性を確保するのが難しい点もある。だが調査への信頼を確保するには監視体制を整えるなど、ある程度調査の品質を保証する流れを業界でつくることが大事だ」と話す。(黒田健朗、宮田裕介

朝日新聞の世論調査

 朝日新聞社が実施している電話世論調査では、フジテレビ、産経新聞とは別の調査会社に実務を委託しています。ただし、調査会社任せにはせず、朝日新聞の社員が調査会場に出向いて、調査会社の業務を管理・監督しています。調査会社の社員と一緒に調査の進み具合を点検したり、オペレーターと対象者との電話のやりとりを確認したりするなどして、不適切な運用がないよう細心の注意を払っています。

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