途上国に広がる再エネ コストも劣勢

 国際的に批判が強い石炭火力発電の輸出に対する公的支援をどうすべきか。小泉進次郎環境相の肝いりでつくられた有識者検討会が先月、石炭火力発電の現状を整理した報告書をまとめた。新たなインフラシステム輸出戦略の骨子に反映させたい考えだ。報告書からは世界が急速に脱炭素化へかじを切る実態が見える。

拡大する写真・図版インドラマユ石炭火力発電所(奥)に隣接した拡張工事予定地に広がる田畑=2020年3月15日、インドネシア西ジャワ州インドラマユ県ムカルサリ村

 石炭火力発電は地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を多く排出する。最新型でも天然ガスによる火力発電の2倍の量で、世界のエネルギー起源CO2排出量の3分の1を占めている。日本は主要7カ国(G7)で唯一、石炭火力発電の輸出支援を続けており、世界的な批判を浴びている。

 日本政府は、石炭火力発電が途上国のエネルギーアクセスに必要なことや、発電コストが最も安いこと、日本の石炭火力発電技術が高性能であることなどを理由に輸出を進めてきた。だが、報告書はこうした理由を覆す事例を挙げている。

 途上国のエネルギーアクセスについては「電気を使用できない人は2018年時点で9億人弱いる」が、「30年までに電力アクセスを得る6割以上の人は再生可能エネルギー(再エネ)による」などと記す。

 発電コストについても「14年には化石燃料の発電所が一番安い国が多かったが、20年前半には世界人口の少なくとも3分の2を占める国で、太陽光と風力が最も安くなった」としている。

 また、日本の石炭火力発電技術では、日本が輸出支援の対象としているUSC(超々臨界圧発電方式)について、「10年からの中国のプラントのカタログ上の性能は、日本と遜色ない」と示した。

拡大する写真・図版三菱商事の事務所前であった石炭火力発電所の建設に反対する抗議デモ=2020年3月3日、ジャカルタ、リツキ・アクバル撮影

 世界は「脱炭素」への動きを加速させている。温暖化対策の国際ルール・パリ協定に沿った国際エネルギー機関(IEA)のシナリオでは、40年までに風力と太陽光が主要電源になり、50年までに電力部門の大部分が脱炭素化される。

 ビジネス・金融の分野でも脱炭素化の動きが目立つ。丸紅や住友商事などの商社や3メガバンクは、相次いで石炭火力発電からの原則撤退を表明した。日本の主な輸出先であるアジアの国々も、電力計画を見直すごとに石炭の比率を下げ、再エネの比率を上げている。

 日本は昨年6月に閣議決定した温暖化対策の長期戦略で、「世界全体の排出削減に最大限貢献する」と打ち出した。このため検討会は、今後の公的支援は「相手国の脱炭素化という視点をもって、その解決策を提供していくものに転換していくことが重要」と指摘した。

 報告書を受けた小泉環境相は「売れるから売る、ではなくて脱炭素への移行が促進されない限り輸出しない、いわば脱炭素化原則へと方針転換しなければならないというメッセージと受け止めた」と話した。

 新しいインフラ輸出の戦略骨子は、関係各省と調整し、6~7月にも決まる。検討会での議論がどれだけ反映されるかが焦点だ。(水戸部六美、編集委員・石井徹

高村ゆかり・有識者検討会座長「脱炭素へ支援転換を」

拡大する写真・図版高村ゆかり・東京大学教授

 検討会の目的は、インフラ輸出をとりまく状況に大きな変化が起きている中で石炭発電の輸出支援に関わる最新の資料とデータを収集し、整理して示すことだった。日本の高効率な石炭発電を求めているなど、途上国に輸出する際に政府が支援するための四つの条件、いわゆる「4要件」について、こうすべきだと提言するのは元々、検討会のミッションではなかった。

 異なる意見があるとき、「事実」の認識の違いによることが少なくない。私の専門の法学でも事実認定が重要だ。特に状況が急速に変化している時には、最新の事実や将来の見通しを共有して適切な政策が何かを議論することが必要だ。

 脱炭素社会への移行や再エネへのエネルギー転換が進み、企業のビジネス戦略や投資家、金融機関の投融資方針が大きく変化、石炭火力発電をめぐる事業環境も変わった。50年以上の稼働が見込まれる石炭火力発電は、変化の中で投資を回収できない座礁資産化する恐れがあり、長期的視点で事業リスクを評価する必要がある。

 日本は昨年国連に提出した長期戦略で「今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会の実現を目指す」という目標を示し、エネルギー基本計画でも「脱炭素化への挑戦」を掲げた。これを「支援」という実際の政策にどう示せるか、本気度が問われる。私たちの税金を使った支援であり、気候変動問題という社会課題に応えるものであるべきだ。

 少なくとも相手国が脱炭素社会に向かう道筋と合致し、それを後押しする支援でなければならない。国際社会が大きな危機感をもって対処している気候変動問題に無頓着と見えることは外交上もマイナスだ。

 従来の支援のあり方から脱炭素社会への移行を支援するものに転換すると明確に打ち出す必要がある。輸出支援の4要件の厳格化も大事だが、支援の基本的な考え方の転換を明確にすることこそが大事だ。(聞き手 編集委員・石井徹