広島)平和記念式典、何のために? コロナで大幅縮小

核といのちを考える

宮崎園子
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 米軍による広島への原爆投下から75年。毎年8月6日に広島市が開いてきた平和記念式典のあり方を問う声が、市民から上がっている。何のための式典か。改めて考えてみた。

 「核廃絶への道筋を誓う式典であってこそ、アメリカによって残酷な死を強制された被爆者の死を本当に弔うことができる」。28日、市民団体のメンバーや弁護士らが開いた記者会見で、被爆2世の中島健さん(73)が訴えた。

 コロナ禍の中で迎える今年の8月6日。感染拡大防止のために平和記念式典の規模の縮小を検討すると表明した4月9日の記者会見で、松井一実市長は「例えば今回は慰霊に目的を絞る」と語った。その発言に中島さんは異を唱える。

 「原爆死没者の霊を慰め、世界の恒久平和を祈念する」。それが、広島市がホームページなどで掲げる式典の目的だ。

 中島さんは、式典での拡声機使用を規制する条例の検討を市が始めたことに抗議してきた市民団体「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」のメンバー。市側と話し合いを重ね、拡声機の音量を調整することで折り合いをつけた。だが、コロナを理由に式典を慰霊だけの場にし、核廃絶の訴えが退けられるのではないかと再び不信感を募らせている。

 今月29日の会見で「慰霊に目的を絞る」という自身の発言について改めて問われた松井市長は、コロナ対策で多くの人の出席を断る一方、できるだけ多くの被爆者と遺族が参列できるように、慰霊を中心に考えたいと発言したと説明。「式典の性格を変えたりとか、そんなことを思うわけがない」と語った。

   ◇

 核兵器をめぐる国際情勢は混迷を極めている。

 米トランプ政権は、イラン核合意や中距離核戦力(INF)全廃条約などの国際合意から離脱を続ける。米紙は今月22日、30年近く行っていなかった核爆発を伴う核実験の再開を米政権が議論したと報じた。

 核軍縮に逆行する米国の動きに対し、安倍晋三首相は明確に異を唱えない。来賓として招かれる広島の式典あいさつでは、2017年に122カ国が賛成して国連で採択された核兵器禁止条約について、言及すらしない。そんな安倍政権の姿勢を松井市長が平和宣言で批判することもない。

 「手を合わせるだけでは核廃絶は実現できない」。市民団体のメンバーらは口をそろえる。

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 平和記念式典の始まりは被爆2年後の1947年。広島市長を会長とする広島平和祭協会が開いた「平和祭」が第1回だった。以来、連合国軍総司令部(GHQ)による占領下だった50年に、朝鮮戦争開戦の影響を受けて中止となった以外は、毎年続いてきた。

 「ヒロシマ戦後史」の著者で、式典の歴史に詳しい宇吹暁(うぶきさとる)・元広島女学院大教授は「市長がしっかりとしたメッセージを打ち出せるのであれば、皆が集まらなくてもいいとすら思う。無関心に目をやり、忘れないようにするためなら、いろいろな式典の形があってもいい」と話す。「この日、この場所で、広島から発信するべきものは何か、市民全体で考え、論じることが必要では」(宮崎園子)

■松井市長の会見での発言(要旨)

【4月9日】

 式典は、原爆の犠牲者の慰霊をすると同時に、世界に向けて平和をアピールすることも目指すものだ。平和教育もできる。複数の要素を持ち合わせた式典だ。この(新型コロナ感染拡大の)事態の中で、例えば今回は慰霊に目的を絞ることで式典をやりたい。慰霊という観点から考えて、密集・密接を避け、参列者の方に大幅にご遠慮いただいて、開催する。

【5月29日】

 コロナ対策で大人数が集まれない。出席者のほとんどをお断りしないといけない。式典にはいろんな目的や目標があるが、今回は慰霊を中心に考えたいと申し上げた。それを言ったからといって、式典の性格を変えたりとか、そんなことを思うわけがない。

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