あさのあつこさんも感嘆 中学生が休校中に考えたこと

花野雄太 渡辺純子 藤田さつき
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 一斉休校に夏休みの短縮、大切な集大成の大会がいくつも中止となり、授業はオンラインになって……。子どもたちの日々や目指してきたことを一変させてしまったコロナ対策。10代の人たちは、そんな世の中をよく見て、じっくり考えています。

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 「つらい、目標が持てない、イライラする、そう感じているのは君だけではない」。名古屋市立桜田中学校の社会科教諭、原雅和さんは4月下旬、2年生の自宅学習プリントにそう書き、課題を出しました。

 プリントには、作家・あさのあつこさんのメッセージ(3月22日付フォーラム面)など、新型コロナウイルスに関する3本の新聞記事を添え、関心を持った記事に、感想や意見を書く課題でした。

 コロナ禍は、世界も日本も、大人にも子どもにも降りかかっている問題。休校前の最後の授業で原さんは「よく見ておくと勉強になるよ」と生徒に伝えました。あさのさんのメッセージに「大人の言葉うのみにせず、考えてみて」「一人ひとりの身に降りかかったことを覚えておいてほしい」とあり、胸を打たれると同時に、タイムリーな話題としてプリントで取り上げることにしました。

 記事を読み、感想を紙に書く。オンラインを使った遠隔授業でも動画配信でもない「アナログ」な課題。それでも良かったと原さんは感じました。生徒たちから返ってきたリポートには、自分や社会を深く、客観的に見つめた文章が、思いのほか多かったからです。社会科が苦手な生徒も、一生懸命考えて書いている様子がうかがえました。

 その後、原さんは、感想文を抜粋したものを配りました。仲間の意見を読んで、また改めて考えてもらいたいと思っています。(花野雄太)

あさのあつこさん記事に中学生 「確かにチャンス」「差別くだらない」

 あさのあつこさんが桜田中2年生のリポートの一部を読み、メッセージをくださいました。生徒5人の文章(抜粋)とともに紹介します。

●横井陽路さん 今トイレットペーパーやマスクの買い占め行為や、マスクが買えずに街を歩く人を「非常識」という人が増えています。しかし、自分もできていないのに身勝手に他人に一喝入れている人も多いと思います。人間が人間との関係を悪くして、これがあさのさんのいう人間の弱点や短所だと思いました。

 ぼくが休校中に聴いたB’zの「HOME」の歌詞には「あいつをいじめたって そんなのまるで 答えにゃならないよ」とあります。非難してもコロナ収束の答えにはならず、みんなが一致団結しないと解決しないと思います。

 あさのさんはこの状況をチャンスと述べていました。ぼくは納得しました。こんな経験があったことで日常の生活のありがたみを再認識できました。

●平田遼太朗さん 僕は大人の言うことが全て正しくて完璧だと思っていた。しかし本当は間違いや失敗することもある。だから人に言われたことをうのみにするのではなく、自分で考え行動しようと思いました。

 また、あさのさんが「いま世の中にはいやな空気があふれています。(中略)ウイルスのせいだと思いますか?」ということも、覚えておこうと思います。「非常識だ」(と誰かを責める)とかそういうものをニュースで見た時は「コロナにかかりたくてかかった人はいないし、差別するなんてくだらないことをするなぁ」と思いました。こういう時こそ全人類協力し合ってウイルスを倒すときだと思いました。

●鈴木詩織さん 私はあさのさんの「主体的にこの時期を生きてほしい」という言葉がすごく心に刺さりました。

 主体的という言葉がわからなくて調べてみると、自分の意思、判断で行動すること、自主的、と書いてあり、(あさのさんの)「大人の言葉をうのみにせず考えてみて」という言葉の意味がわかりました。

 私は学校に行かなくちゃいけないと思っていました。でも、私はこれから新しいことを学ぶために学校に行きたいと思うようになりました。これからは自分のできることは大人の言葉をうのみにせず少しでも考えられるようになっていきたいです。

 この経験を生かし、大人になったとき、もしこのようなことが起きたら、自分が動ける範囲でこのような騒動が起きないようにしたいです。

●国井佑斗さん 僕は資料を読んで改めて思ったことが三つあります。一つ目は、新型コロナウイルスはいつどこで起こっているのか予測がつきにくいことです。一人一人の行動が肝心だと思いました。

 二つ目は普段行っていることができないという恐ろしさです。卒業式がなくなったり、行事が延期になったり、大きく考えると国の経済が安定しないなど、とても重要なことが制限されてしまいます。普段やっていることを続けられる重みは大きいと感じました。

 そして三つ目は、大人の言葉にとらわれないことです。情報は正しいか、正しくないかをよく見分ける必要があると思います。そしてこのような状況だからこそ、他人を否定したり自分のことだけ考えたりするのではなく、自分が今何をしたらよいのかを考えるべきで、他人ともめている場合ではないと考えます。

●成田沙穂さん あさのさんの言うとおり、個人の事情ではなく、国や社会の事情が変わると、いろんな人が困ったり、経済が変わったりしてしまうことに気づきました。(トイレットペーパーの買い占め、デマや不正確な病気の情報に右往左往する状況について)私は「ウイルスのせい」ではないと思います。誰だってこわくて不安なのは一緒で、それは気持ちが冷静ではないからだと思います。

 毎日の出来事から世の中は変わっていく。だから、自分が思ったことを大人たちに話したりすることで、騒動や危機を起こさない、世の中を変える力になると思います。ささいなことでも、自分たちは何をしたのか、どうすればいいのかなど、いろいろなことを思い、ちゃんと検証することが大事と知りました。

自分を掘り下げる力、さすが

あさのあつこさんより

 生徒さんのリポートを読ませていただきました。便宜上、5作を選ばせていただきましたが、リポート一つ一つにわたし自身が強く心を動かされも、励まされもしました。子どもたちの底力、たいしたものだと感嘆しています。

 桜田中学校のみんな、いえ、この国で“子どもたち”と括(くく)られる若いみなさん、緊急事態宣言が解除された、今、どんな風に生きていますか。暮らしていますか。

 リポートの中で特に心に残ったのは、“自分”について深く思考しようとする生徒さんたちの姿でした。未曽有の事態の中、自分と他者、学校、学習、社会、国、家族、正義、常識、日常そして命。“自分”を核として思考を深めていく文章は、まっすぐに心に刺さってきました。むろん表現は稚拙な部分も言葉足らずな面もありました。けれど、そんなことはどうでもいいのです。

 自分で思考し、想(おも)い、自分で言葉を紡ぎ伝えようとする。リポートに顕著だったその姿勢こそが、これから先未来と呼ばれる時代に何より大切なもの。それをわたしは、みんなから教わりました。

 この数カ月で、社会のありようも、人との関わり方も、経済の流れも、人の心の形も、あらゆるものが変化を余儀なくされました。その中で、わたしは、わたしを含めた大人たちの言葉の空疎さ、軽さに啞然(あぜん)とさせられたものです。自分の言葉で自分の想いを語る大人たちが、どれくらいいたでしょうか。

 みんなの言葉からは生の人間が伝わってきました。“主体的”の意味を調べた人、“当たり前の日常”について初めて考えた人、同じ禍(わざわい)を繰り返さない未来を誓った人。誰もが、自分の頭と心から生み出した言葉をつづってくれました。これは力です。この苦しい数カ月が、みんなの力を育んだとしたら、力を生み出したとしたら、自粛と呼ばれる日々は決して無駄でも無為でもなかったのですね。それを教えてくれて、ありがとう。

 とても励まされました。最後になりましたが、みんなの周りには本物の言葉を使える大人たちが必ずいます。有名でも偉い人でもないかもしれませんが、必死に働き、社会を支え、守っている人たちです。その声こそがみんなの糧になる。どうか聞くべきものを聞いてください。

行事どうする 私たちも意見

 学校は再開しても、人が集まって体を動かす運動会などはどうするか。難しい問題です。生徒と教員が話し合いを始めた学校もあります。

 玄界灘に面した福岡県新宮町にある新宮東中学校で14日、オンラインの会議がありました。参加したのは、学年縦割り3ブロックで競う体育会で、リーダー役を務めるはずだった3年生9人。折居邦成校長が「本当なら来週が体育会。共につくりあげることを大事にしてきた。素直な思いを聴かせて」と呼びかけると、次々と手が挙がりました。

 「最後だから、やりたい」。思いは共通です。夏の砂像コンテスト(砂の芸術)も秋の合唱コンクールも、3ブロックで競うスタイルで、絆を深める大切さは身に染みています。でも「3密」がよくないことも分かっています。「ムカデ競走や大縄跳びとか、密集密接する競技はやめる」「保護者はなしにして、録画して配る」「リアルタイムで配信したら」「生徒の待機用テントを隣の施設のグラウンドに立てれば間隔が空く」。次々にアイデアが出ました。「なるほど。思いつかなかった」と、校長や教員がうなずきました。

 「やりたいけど、命の危険があるから延期か中止して、秋にコロナが収まったらやる方がいい」と言う生徒もいました。「2学期は砂の芸術(砂像コンテスト)も合唱コンクールもある。受験勉強もあるのに、三大行事三つは難しい」という意見も。40分ほど意見を交わし、会議は終了。生徒会長の宮本姫佳さん(14)は「もし中止になっても、勝手に決められたんじゃなくて話し合った結果なら、納得できる。意見を聴いてくれてうれしい」と話しました。

 会議のきっかけは、リーダー役の一人の井上航(わたる)さん(14)が4月下旬、学校に送ったメールでした。「3年生は中学校生活最後の三大行事を成功させたいという思いが非常に強い」「生徒の意見も尊重しつつ判断をしてくだされば幸いです」と丁寧につづったのです。「共につくる」を大事にしてきた学校は正面から受けとめました。アプリ「Zoom」で準備中だったオンライン授業の仕組みを使い、スマホやパソコンのない生徒には学校のタブレット端末を貸して会議を設定しました。

 学校の陸上部と野球のクラブチームをかけもちする井上さん。忙しい日々はコロナで一変しました。最初は「当たり前がどんどんなくなることが不安だった」けれど、自分で時間を管理するうち「やるべきこととやりたいことをはっきりさせて、優先順位を付けられるようになった」と言います。今は「『当たり前』に戻るのが楽しみ。コロナの前より、自分の行動が変わると思う」。学校とは「いろんな人と会って考えを知り、視野が広くなる場所」と気づいたと話します。

 折居校長は「どうすれば体育会を実施できるのか、一緒に考えたい」。検討を始めています。(渡辺純子)

予測不能な未来 必要な力は

 東京都中野区の私立新渡戸文化中学・高校では、生徒たちへあえて一方的に課題を出さずにオンライン授業を進めました。「コロナ禍で予測不可能な将来に直面した今、生徒自身に『必要な力とは何か』を考えてほしかった」と生物教諭の山藤旅聞さん(40)は言います。

 中学では4月初めに生徒全員へタブレットを配り、オンラインでみんなをつないで「おしゃべり」することから始めました。テーマは次第に広がり、「家にある大切な物」から「未来の○○を語る」「未来を生きる力」へ。普段はあまり会えないスポーツ選手や企業人、海外在住の大人たちともネットで語り合いました。5月下旬には「コロナで休校になって考えたこと」「オンラインの長所短所」について書き、ネット上で回答を募りました。

 「コロナについて勉強したい」という声がまず上がった高校。京都大の山中伸弥教授のホームページやニュースサイトを見て学び、「大切だと思ったこと」「伝えたいと考えたこと」をチャットで共有。文章やイラストなどの作品に表現しました。(藤田さつき)

対話って面白い

●もしもゴールがあったとして、そこにたどり着く方法は一つではないんだなと思いました。いろんな経験を積みたいと思いました。私が、気付かなかったところに大人の方々の視点があって、対話って面白い。同時にみんなに会えないのが寂しく感じました。でも、このオンラインでたくさんたくさん、話したい。(中3)

●今まで当たり前のように感じていた毎日があったと言うのは、こんなにも幸せなことだったんだと思いました。学校に行けない人がいること、ご飯を毎日食べられない人がいること、そういうことを聞いたことはあります。そのとき自分は幸せなんだなと思ったこともありましたが、実際に今までの暮らしがなくなって、私って全くわかっていなかったなと思いました。もっと世界に目を向けられるといいなと感じています。(中1)

●人が変わるって難しいけど、そのきっかけになるものは「出会い」だと思います。それぞれがもつ価値観に揺さぶられたり、衝撃を受けたり、楽しかったり、悲しかったり、うれしかったり、新しいことを知ったり、憧れたり、勇気をもらったり……。人と出会うことはたくさんの感情が動きます。偉人とたたえられている人たちだって、あの時、師匠に出会ったから、仲間たち同志がいたから、っていうのはよくある話です。私もそんな出会いをして、いろんな事を知りたいです。でも、言葉が通じなければ意思を伝えることができません。(私は相手に伝わるならツールは何でもいいと思います。音楽でもアートでも数学でも、、、だけど、より明確に伝わるのは言葉だと思います。)だから、私は英語を学ぶと思います。(中3)

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