マスクもらって泣くなんて コロナ禍でこそ出会う優しさ

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田中陽子
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 全国が緊急事態宣言下だった5月上旬、一人の母親の投稿が新聞に掲載されると、翌日から編集部に続々とマスクが届き始めました。まだ外出自粛や感染の恐怖に人々の心が張り詰め、誰もが我先にとマスクを求めた当時、何があったのでしょうか。記者が取材しました。

 川崎市の石渡ひとみさん(65)の投稿が朝日新聞(東京本社版)の「ひととき」欄に載ったのは、5月6日のことだった。こんな投稿だ。

ドアノブにかけられていたマスクは……

◇ドアノブのマスク

 33歳の息子は自閉症で、グループホームで生活しながら、障害者雇用の職場に電車通勤している。緊急事態宣言もよく理解し、マスク、手洗い、人と離れるなど、几帳面(きちょうめん)な性格から感染対策は抜かりない。

 週に1度帰宅する息子にマスクを7枚ずつ渡しているうちに、買いおきは底をついた。通販サイトで注文したが1カ月たっても届かない。これほどのマスク不足を予想できず、布マスクの洗い方までは彼に教えてこなかったのだ。友人たちに聞いてもマスク情報はなかなか得られず、少しずつ分けてもらうのだが、すぐ足りなくなる。困った。

 先日の晩、玄関のドアノブに小さな紙袋がかかっていた。中にはマスク7枚入りの箱と、走り書きが入っている。「勤め先の近くの薬局で売っていたのを、こっそり2回並んでゲット! マスクの通販詐欺も横行しているらしいから」

 息子の子育てを見守ってくれてきたママ友からだ。思わず涙が出た。マスクをもらって泣くなんて生まれて初めてだ、と泣き笑い。

 自粛の日々、人と人が離れても、心のぬくもりは伝わる。いつだって息子のおかげでやさしさに出会えるのだ、と改めて思った。(投稿はここまで)

反響続々「子育ての背中、見せてもらった」

 掲載後、数多くの反響が編集部に届いた。読者は投稿のどこに心を打たれたのか。

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 「家にあるマスクを送ってみ…

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