アビガン、コロナへの効果は不明 専門家が「待った」

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服部尚
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 新型コロナウイルス感染症の治療薬として超スピード承認されたレムデシビルに続き、注目を集めているのが抗インフルエンザ薬「アビガン」だ。感染した著名人が「アビガンのおかげで回復した」といった発言をするなど、社会の関心も高い。安倍首相は「月内にも承認をめざしたい」と繰り返し発言しているが、新型コロナに効くという明確な科学的根拠(エビデンス)はまだ示されていない。アビガンとは、どんな薬なのだろうか。

当初は新型インフル向け

 アビガンをめぐっては、藤田医科大学が進めている特定臨床研究が中間解析の結果、有効性を示せなかったとする記事を一部報道機関が流した。藤田医大はこの件について20日、Zoomで会見を開き「中間解析は有効性を評価するものではない」とし、現段階では判断できないと説明した。

 安倍首相はこれまで、会見などで「3千例近い投与が行われ、効果があるという報告も受けている」「効果があるという成果が出れば、月内の承認を目指したい」と、いった発言を繰り返してきた。

 アビガンは、新型インフルエンザの薬として2014年に承認された。タミフルなどのインフル治療薬は細胞内でのウイルス増殖を抑えないものが大半だが、アビガンは増殖そのものをブロックする。ウイルスに耐性ができるなどほかの治療薬が効かなくなった事態を想定し、国が必要と判断した場合にのみ患者に使うことを検討する、という前提だった。

 このため、新型インフル発生時の「切り札」というイメージを持たれているが、現実は、そもそも効果があるのかどうかさえはっきりしていない。

 アビガンについて、医薬品医療機器総合機構の審査報告書にはこうある。「本剤の季節性のA型またはB型インフルエンザウイルス感染症に対する有効性はいまだ検証されたとは言えず、米国において臨床での有効性が示唆された段階に過ぎない」

 厚生労働省新型インフルエンザ関連の小委員会作業班メンバーとして、アビガンの有用性について検討したことがある倭(やまと)正也・りんくう総合医療センター感染症センター長(大阪府)は「アビガンに新型コロナへの治療効果があるのかどうかは、まだ証明されていない」と話す。

 りんくう総合医療センターでも、人道的な見地から未承認薬を使う制度を利用し、10人ほどの患者で使ったという。しかし、効果があったかどうかは判断できていないという。

 「自然経過で治る場合もあるだろうし、逆にプラセボ効果といって、アビガンを飲んでいるというだけで患者が何らかの安心感を得られる場合もある」。患者をアビガンをのんだグループとのんでいないグループに分けて比較試験をしないと、見極めが難しいという。

アビガンはコロナに効く?

 それでは、アビガンの効果を裏付ける試験はどういう状況にあるのか。

 国内では、開発したメーカーの富士フイルム富山化学が96例を目標にアビガンを使った場合と使わなかった場合とに分けて効果を比較する前向きの臨床試験を進めている。藤田医科大学は特定臨床研究のほか、アビガンを使った患者の経過を観察する研究にも取り組んでいる。

 臨床研究に詳しい植田真一郎・琉球大教授(臨床薬理学)は「国内でも患者に使う観察研究が進んでいるが、これは人道的な見地からアビガンを使い、経過を記録しているに過ぎない。自然に治る患者さんが多いため、病状の改善がアビガンによるものか、自然経過なのかまったくわからず、何千例積み上げても効果を評価できない。効果をみるには、アビガンを使った患者と使わなかった患者を比較して効果を確かめる臨床試験が必要だ」と話す。

 そのうえで、臨床試験の難しさも指摘する。「エボラ出血熱など致死率が高い感染症と異なり、新型コロナの致死率は数%とみられる。このため、臨床試験によって薬の効果を致死率の違いで比べることは難しく、症状が続く期間など評価が難しい指標で比べざるを得なくなる」

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 先日、新型コロナに対して米…

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服部尚
服部尚(はっとり・ひさし)朝日新聞記者
福井支局をふり出しに、東京や大阪の科学医療部で長く勤務。原発、エネルギー、環境、医療、医学分野を担当。東日本大震災時は科学医療部デスク。編集委員を経て現職。