広島)原爆資料館、休館中も世界に発信 ネットを活用

宮崎園子
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 2月末から3カ月近く臨時休館が続く広島市平和記念資料館。広島を訪れてもらい、じかに証言を聞いたり遺品を見たりすることができない中、インターネットを活用した発信に取り組む。(宮崎園子)

 「こんにちは、アロハ、こんばんは、おはようございます」。日本時間の4月24日朝、ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使った勉強会。ハワイや米国本土など各地から参加した約100人に、広島出身でフィリピン在住の沖本直子さんが呼びかけた。

 沖本さんは被爆者に代わって体験を語り継ぐ「被爆体験伝承者」として、広島市が委嘱した150人の一人。東京から広島に疎開して11歳で被爆した瀬越睦彦さん(86)の体験を英語で語る。参加者から質問が飛ぶ。「(疎開先の)子どもたちが食べ物を盗んだのは生きるためですか」「なぜ広島の歴史を勉強しようと思ったのですか」

 太平洋戦争の記憶の継承に取り組むハワイの非営利団体「パシフィック・ヒストリック・パークス(PHP)」が4月に始めた連続講座。この日は平和記念資料館が協力し、英語で話せる沖本さんを紹介した。PHPの担当者は「こんな状況でも様々な視点から歴史を学び続けられる。ナオコには素晴らしい講話をしてもらった」。

 資料館によると、オンライン証言は10年前に始め、約90件実施。広島に来られない海外の人たち向けだったが、その蓄積が生きている。ただ、被爆者世代でこうしたツールを使いこなせる人は少ない。平時なら一対一で指導できるが、コロナ禍で被爆者との対面もできない。資料館啓発課の浜岡克宣課長は「通常行う研修に、こうした分野も組み込む必要性はある」。

 広島出身で米国在住の森元香織さんも4月、現地の友人とオンラインで被爆者の講話を聞いた。子育てしながら医学の勉強中、インターンシップ先で被爆者の話を聞いたのを機に勉強会を企画。証言者のビデオを借りようと資料館に問い合わせると、被爆者の小倉桂子さん(82)によるオンライン証言を提案された。

 友人たちが被爆証言を聞くのは初めてだった。「ビデオと違って講話者と会話できるのが魅力。こういうものを使えば、世界のどこの教室でも講話を聞くのが可能になる」

     ◇

 平和記念資料館が毎年3月から1年間、前年度に寄贈された資料を展示する「新着資料展」。今年も準備はできたが休館が続く。

 2018年度は新たに70人から計613点の遺品や写真などが寄贈された。自宅で過ごす時間に平和学習として役立ててもらえたら――。学芸課の加藤秀一課長らがホームページ(http://hpmmuseum.jp/別ウインドウで開きます)での展示紹介を発案した。

 遺品の衣類や壁に刺さったままだったガラス片などの資料を約5分の動画で解説。学芸員の佐藤規代美さんは、一緒に通学中だった兄のほか母や妹を原爆で失った体験を4年前に亡くなるまでほとんど家族に語らなかったという男性の遺品を説明。「苦しみ、悲しみの深さにも、心を寄せていただきたい」と語る。

 加藤課長は「来館して実物を見ていただけない今の状態は残念。こうした中でも寄贈された方の『見てほしい』『伝えてほしい』という思いに応えたい」。問い合わせは資料館(082・241・4004)へ。

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