「学校行きたくない」でもいいよ 再開喜べない子たちへ
新型コロナウイルスの感染拡大で出されていた緊急事態宣言が39県で解除され、学校が再開され始めています。でも「学校がしんどいな」と思っている子もいます。そんな子どもに寄り添ってきた人たちに、大人たち、先生たちに気にしておいてほしい話を聞かせてもらいました。
社会の都合で子どもたちを頑張らさんといて
◆西川日奈子さん(65) 子どもの居場所づくりに取り組んできたNPO法人「西淀川子どもセンター」=大阪市=の前代表
一斉休校になり、それまで不登校だった子どもたちがちょっと元気になってきて、ドリルをやり始めた子もいます。リセットされた感じ。でも、登校となると、しんどいやろうな、と思う。
新年度で担任が代わったし、クラス替えもあって、どこまで子どもの状況が引き継がれているかも分からない。これまで登校していなかったからか、学校からの連絡もほとんど無い。いじめられてて、転校したいと言ってた子は相談もできない状況が続いています。
家でフォローできたらいいけど、仕事を五つ掛け持ちするお母さんもいて、じっくりと子どもをサポートする態勢を取れない家庭もある。親が家にいることで元気になった子もいるけど、親のストレスは大きくて「はよ学校に行ってほしい」と思ってる親も多い。
子どもも「暇やから学校に行きたい」とは言う。でも、不登校ではないけどギリギリの状態の子たちは、行きたいと言いつつ、宿題も仕上げられてないから、ゆううつそうです。
そんな中で学校が休校中の遅れを無理に取り戻そうとすれば、子どもにはさらにストレスになる。「この世代は勉強が遅れる」とかいう情報ばっかり先取りしてほしくない。
学校の先生たちは、とにかく「会いたかったで」「よう来たな」「無事で良かった」と迎えてあげてほしい。課題ができてなくても、来ただけで二重丸、100点をあげてください。社会の都合で、必要以上に子どもたちを頑張らさんといて欲しいんです。
子どもが「しんどい」と言ったときに「みんな、しんどいねん」「あんただけちゃう」と言ってしまいそうになるかもしれないけど、「ほんまやなぁ」と認めてあげて。
休校中は学校から宿題が出てるから、「宿題がんばルーム」を今月から開いてるんです。でもね、宿題ができてなくてもええんちゃうかと思ってます。
みんな、歴史に残る経験をしたんです。これからもいろいろあるやろうけど、子どもたちにパートナーとして「一緒に乗り越えていこな」と言ってくれたらと思ってます。
しんどかったら1日も通わなくても卒業できる
◆石井志昂(しこう)さん(38) 不登校の当事者や親に向けた専門紙「不登校新聞」の編集長
いま「学校に行きたくない」と言っている子よりも、行きたくないことを誰にも言えない子のことを心配しています。
4年前の熊本地震の後で、こんな話を聞きました。学校に行くのが苦しかった中学生の子が震災で休校になり、家にいることができて「救われた」と感じた。でも学校が再開されたら体が動かず、自分でもびっくりした、と。
今回は超長期休みなので、同じようなことが起きるのでは、と思っています。
休校期間中に大量の宿題が出ている、と聞きます。小学校の新1年生などは、新任教諭は担任を持たせられないほど指導力が必要なのに、素人のお母さんやお父さんが教えることを担わされている。宿題ができなかった子は、休み明けに学校に行きづらいかもしれない。
不登校の問題を20年近く取材した立場から言うと「この学年で覚えなければいけないこと」なんて、一つもありません。勉強は、後からでもできる。小学校に行っていなくても京大に行った人だっています。勉強の遅れを取り戻すよりも、心の傷をケアして、子どもと対話できることのほうが重要だと、学校の先生方には伝えたい。
保護者の方へのメッセージですか? こういう言い方をしていいか分かりませんが、子どもを見すぎない、直視しすぎないことです。直視しすぎると「もうちょっと勉強してほしい」「お友達はやっているのに」と思ったり、いらついたりしてしまう。
非常事態が続き、子どももストレスがたまっています。発散しやすい環境を作り、距離を取り、親が背負い込みすぎないでください。
一斉休校になってみて、これまでがあまりにも「通学依存」だったのではないか、と改めて感じています。いろいろな子がいて様々な状況があるのに「全員来い」というのは乱暴。でも、それができない子どもを問題視していた。
今回は一転、「全員来るな」と。これも強引な話です。虐待などで家が安全ではない子もいるのだから、一定の子は行ける仕組みを考えても良かった。
休校になると授業ができず、家に子どもがいると親も働けないということがよく分かりました。学校の意義が問い直される時期なのでは。学校がしんどい子はオンラインでも学べるようにしてカスタマイズできれば、子どもも親もストレスが減ります。
子どもたちには「小学校や中学校がしんどかったら、1日も通わなくても卒業できる。登校が不要の高校だってある」ということを伝えたいです。僕が不登校だった時に一番知りたかったことだから。行かないという選択は間違いじゃないんだよ、と。
心の問題を聞き取れる関係を
◆塩崎義明さん(62) 「教師と子どものための働き方改革」などの著書がある元小学校教諭
37年間、千葉県の小学校で学級担任をしていました。4月は担任が代わり、クラス替えをする学校も多い。子どもたちは教師とうまくやっていけるか、友達が作れるか、と不安な状態で学校に行く時期です。一斉に再開すれば感染の危険があるだけでなく、心のケアもできず、学習に遅れる子も出てくる。分散登校などにして、少人数で再開するべきだと思っています。
休校期間中、学校からたくさんの学習課題が出されています。時間割まで決まっている学校も多いようですが、自分のペースでできればいい。教師だって、すべてをできるはずはないと分かっているはず。できなかった分のケアをするのが学校なのですから。
それよりも心配しているのは、家庭が学校化してしまうことです。家庭がホッとできる場所でなくなってしまうと、子どもは逃げ場がなくなります。
長期休み明けに子どもの自殺が多いことが知られています。命がかかっていることなので、先生たちは子どもを丁寧に見てあげてください。そのためには教員の力量に頼らず、子どもは少人数にして、教員は臨時講師も雇って増やし、心の問題を聞き取れる関係を作る。いじめや虐待といった問題の解決にもつながると思います。
「夏休み明け以上の危機となる恐れ」
いま、ツイッター上にはこんな声があふれている。
「学校行きたくない行きたくない行きたくない」
「学校始まったらって考えるだけでも恐怖…」
いじめを受けていることを示唆するものもある。学校に行きたくない、とつぶやいた後に「しにたい」と書き込む人も。
2015年公表の自殺対策白書によると、過去42年間の18歳以下の自殺者数を分析した結果、夏休み明けの9月1日が最も多く、春休みやゴールデンウィークなどの長期の休みの後も多い傾向があった。
九州産業大の窪田由紀教授(臨床心理学)は「今回は夏休み明け以上の危機となる恐れがあるのでは」と心配する。休校中の課題を終えられていなかったり、学習についていけなかったりすることへの不安や、いじめの標的になるのではという恐れを抱いてしまう子どもたちが「やっていけそうにない」と絶望してしまわないかと感じている。
危機感を覚えた窪田さんは、39県での緊急事態宣言解除直後、自身のフェイスブックにこんな風に書き込んだ。
「学校は学習の遅れをいかに取り戻すかに懸命になっておられるように見えます。(中略)そこにばかり注力してしまうことで、このような子どもたちを追い込んでしまうことだけは何としても避けなければならないと思います」
「一人ひとりの子どもの声に耳を傾け、それぞれの子どもの状況に応じた柔軟なスタートを切っていただくことを願ってやみません」(山本奈朱香)