政権また世論読み違え「保守層まで…」 検察庁法改正案

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清宮涼 岡村夏樹
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 安倍政権検察庁法改正案の今国会での成立断念に追い込まれた。新型コロナウイルスへの対応が優先される国会で、様々な疑念が指摘される法案の審議を強行したことに世論が強く反発し、仕切り直しを余儀なくされた。内閣支持率は急落し、政権運営にも打撃となりそうだ。

官邸、慌てて方針転換

 18日、首相官邸。安倍晋三首相自民党二階俊博幹事長と会談し、同法改正案について「国民の理解なしで前に進むことはできない」と、今国会成立を事実上断念する考えを伝えた。

 3日前の参院本会議では首相は改正案の成立に意欲を示していた。法案への懸念を指摘する野党議員に「内閣の恣意(しい)的な人事が行われることはない」と反論。それまでの審議でも「今国会で成立させる必要がある」と明言していた。

 その強気の姿勢が先週末になって一転した。ここまで法案への批判が高まることは想定していなかった――。政権幹部はそう漏らす。

 潮目が変わる直接のきっかけは9日夜、ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」とのハッシュタグ付きの投稿が広がったことだ。著名人も声を上げ、投稿は数百万へと瞬く間に拡散した。

 政権は当初、「世論のうねりは感じない」(政府高官)などとネット世論を軽視。改正案の審議には影響しないと口をそろえた。こうした姿勢にも批判が集まり、SNS上の声に押されるように野党は国会での抵抗を強めた。野党は15日、武田良太国家公務員制度担当相の不信任決議案を提出。与党がめざしていた先週中の改正案の衆院通過を阻んだ。

 さらに同日、元検事総長ら検察OBが法務省に異例の意見書を出した。「正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない」。改正案を強く批判するそんな内容にSNS上で賛同が広がった。

 SNS上の声は、実際に広く社会にも浸透していた。朝日新聞が16、17日に実施した世論調査で、改正案に「賛成」は15%にとどまり、「反対」が64%だった。改正案の成立を「急ぐべきだ」はわずか5%で、「急ぐべきでない」は80%。内閣支持率も大きく下落した。

 沸騰する改正案への批判を前に、政権中枢はこのまま審議を強行すれば支持率が底割れしかねないと判断。今月下旬にも閣議決定する新型コロナ対策を盛り込んだ第2次補正予算案の審議に影響すれば、さらなる批判を招きかねない。危機感を強めた首相と側近は、与党幹部らに事前に伝えることなく先送り方針を決めた。

 ただ、今国会での改正案成立を見送っても、問題の発端となった黒川弘務・東京高検検事長の処遇をどうすべきかといった課題は依然として残る。政府は1月、黒川氏の8月までの定年延長を閣議決定した。野党はこれを「政権に近い黒川氏を検事総長にするための恣意的な人事」と批判し、改正案は黒川氏の人事を追認するものと指摘する。官邸関係者は「法案とは別に、黒川さんの人事をどうするか。国民の理解を得られるのか」と話す。清宮涼

世論見極め長期政権

 検察庁法改正案をめぐる世論を軽く見ていたのは、安倍首相の発言からも明らかだった。

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 「政策の中身、ファクトでは…

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