感染者情報「非公表で」 濃厚接触経験の市長発言に波紋

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遠藤和希 滝沢隆史
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 新型コロナウイルスに従業員が感染した企業などが自主的に公表するケースについて、長野市が不特定多数に感染を広げる可能性がある場合を除き、企業に公表を控えるよう求める方針を示した。プライバシーの保護を最優先した形だが、専門家からは市民の利益にならないとの指摘もある。

「ものすごい仕打ち」

 「企業の従業員が感染した場合、感染が広がる可能性がなければ、企業名を公表しないよう市として要請する」

 加藤久雄市長は13日の記者会見で、こう切り出した。スタッフが感染した整骨院を受診して濃厚接触者になったことで、家族らが周囲から「近寄らないで」などと言われた体験を踏まえ、「感染者になると誹謗(ひぼう)中傷がある。個人のプライバシーをどう守るのか」と発言。企業が自主的な公表に萎縮するのではとの質問には「社員のプライバシーを犠牲にしてもいいのか」と反論し、「社名を公表してプラスになることは一つもない」と断言した。

 加藤市長は15日、朝日新聞の取材に「要請に対し、企業が自由に判断すればいい。ただ、(個人が特定されれば)ものすごい仕打ちをうける。社員を守らなくてはならず、問題提起をしたかった」と言及。改めてプライバシー保護の観点から企業に公表しないよう要請する考えを示した。

 こうした発言に対し、共産党長野市議団は14日、「緊急要望」とする市長宛ての文書を市に提出。「市民から『自主的に公表する企業の良識を歓迎したい』との抗議が寄せられている」として、発言の一部取り消しなどを求めた。野々村博美団長は「企業は社会的な責任を果たそうとしており、行政側が求めることではない」と話す。

 市は感染者を公表する際に、職業を明らかにしないなど情報公開に慎重な姿勢を貫く。一方、県は国の緊急事態宣言が出された翌日の4月8日から、感染者の職業の公表に踏み切った。「自身のことのようにとらえやすくし、危機意識を高めてもらうため」(県の担当者)。さらに同24日からは住所についても、保健所管内から市町村名の公表に切り替えた。

 大阪府は建設業、清掃業など職種まで公表するケースもある。担当者は「個人の特定につながらないよう十分に配慮したうえで、できるだけ細かく情報を提供するほうが府民の安心感につながる」と話す。

 感染症の社会的影響に詳しい関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「感染が終息していない段階で、公表しなくてもいいと言うのは時期尚早だ」と指摘。「情報を出さないことで、あそこで感染者が出たんじゃないかと噂になり、社会に不安が広がる。行政側が率先してあいまいにするのは市民の利益にならない」と話す。

「企業が判断を」

 新型コロナをめぐっては、企業などが従業員の個人情報に配慮したうえで自主的に感染を公表するケースが目立つ。

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