緊急事態だからこそ、自由を考える 吉岡忍さんに聞く

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聞き手・興野優平
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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う4月7日の緊急事態宣言を受けて、日本ペンクラブは「緊急事態だからこそ、自由を」と題した声明を発表した。「いつの日か、ウイルス禍は克服したが、民主主義も壊れていたというのでは、危機を乗り越えたことにはならない」と、非常時という理由のもとで自由や権利が侵されてはならないと訴える。日本ペンクラブ会長で、ノンフィクション作家の吉岡忍さんに声明の真意を聞いた。

「緊急事態だからこそ、自由を」の要旨

 緊急事態宣言の下では、移動の自由や職業の自由、教育機関・図書館・書店等の閉鎖によって学問の自由や知る権利も、公共的施設の使用制限や公共放送の動員等によって集会や言論・表現の自由も一定の制約を受けることが懸念される。 これらの自由や権利は、非常時に置かれた国内外の先人たちの犠牲の上に、戦後の日本社会が獲得してきた民主主義の基盤である。 いつの日か、ウイルス禍は克服したが、民主主義も壊れていたというのでは、危機を乗り越えたことにはならない。いま試されているのは、私たちの社会と民主主義の強靱さである。

 ――新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。

 「いま、社会のすべてが試されていると思います。感染者治療に当たる医師や医療関係者の力だけでなく、マスク、防護服、消毒液や種々の医療装置を製造する産業力も、軽症者を受け入れるホテルや施設を提供する社会インフラの底力も試されている。もちろん私たち自身も、感染しない、させない、冷静さや他者に対する配慮を身につけてきたかどうかを考えないといけない。戦後75年、われわれはちゃんと機能する民主主義社会を築いてきたか、一日一日、その全体が試されているような緊張感があります」

 ――外出などの自粛要請が出ているとき、「自由を」というのは自粛に反対ということですか。

 「そうじゃありません。命を守るためには自由を抑制するのもやむをえない、という議論に対する、問題の立て方が違う、という指摘です。このウイルスの特性や感染の状況、PCR検査の実態、どうすれば感染しないか、させることがないのかなどを科学的に知らなければ、一人ひとりが有効に対処しようがない。それは私たちの知る権利であり、知った上で自由に考え、発言し、みんなでどうしようか、と実効的なルールをつくっていかなければ、命も守れないでしょう。そのために自由が大事だということです」

日本ペンクラブ

戦争に対する危機感を背景に1921年に設立された文学者らの国際組織「国際P.E.N.」の日本センターとして、1935年に設立。「文学の普遍的価値の共有」「平和への希求と憎しみの除去」「思想・信条の自由、言論・表現の自由の擁護」を基本理念とする。おもに「言論表現委員会」「獄中作家・人権委員会」など13の委員会を通じて、シンポジウム開催などの活動を続ける。

 ――「知る権利」の象徴ともいえる図書館は、国立国会図書館はじめ、多くが閉館しています。

 「過去のパンデミックの様子を調べたい、デフォーやカミュの『ペスト』を読みたいと思っても、緊急事態宣言下では手に取る手段がなかなかない。当時の人たちが危機的な状況に直面して何を考えたか、どうやって生き抜いたのかを知るのは、いまを生きるためにも重要です。歴史や文学はそのための宝庫ですから。図書館、書店、あるいはネットでもいいですが、知識を得る選択の幅をなるたけ広くしておくことは、社会の成熟に欠かせません」

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 ――この間の政府の対応や緊…

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