アーレントVSシュミット コロナ時代の公共性を考える

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 新型コロナウイルスの感染拡大を止めるため、できるだけ人と人が直接会わないですませる――。情報技術の発展により、新しい生活スタイルへの切り替えを歓迎する声も聞かれる。ただ、この変化は「公共性」に対する感覚に影響を与えているかもしれない、と社会思想史が専門の百木漠・立命館大学専門研究員はいう。ヒントとなるのは二人の思想家、ハンナ・アーレントとカール・シュミット。寄稿してもらった。

ももき・ばく 1982年生まれ。専門は社会思想史。立命館大学専門研究員。

 どうやらコロナ以前とコロナ以後では、社会のあり方、そしてコミュニケーションのあり方が大きく変化することになりそうだ。

 コロナ感染の拡大が続くなか、多くの仕事がリモートワークに切り替わり、大学では一斉に遠隔授業の試みが始まっている。さまざまな混乱と戸惑いが生じる一方で、意外にもオンラインで十分に仕事や授業は成り立つのではないか、今後もこの方が手っ取り早くていいのではないか、という声も聞かれる。しかし、その「手っ取り早い」コミュニケーションからこぼれ落ちるものがあるとしたら、それは一体何だろうか。

 政治思想家のハンナ・アーレント(1906~75)は『人間の条件』のなかで、人々が複数的な意見を交わし合うことを「活動」と呼び、「公共性」のかなめに据えた。異なる意見を持つ人々が同じ空間に集い、共通の問題について議論する。それを通じて、同じ世界でどのように共生していくかを考える。それこそが政治であり、公共性の実現だと彼女は考えた。その際、物理的空間を共有することが、「活動」のための重要な条件になる、とも付け加えている。

 アーレントはこれを、テーブルを囲んで話し合いをすることに例えた。同じテーブルを囲んで別々の席につく。するとわれわれはテーブルを介して互いに結びつきながら、異なる視点を保持し、かつ一定の距離を保っていることになる。こうした「介在物in―between」を通じて共通の関心事(コモン)について異なる意見を交わし合うことこそが、公共性=複数性の実現であるとアーレントは考えたのだ。

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 オンラインで実現しにくいの…

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