(小説 火の鳥 大地編)53 桜庭一樹 小型飛行機に、新エネルギー爆弾……

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「私は、この少尉を火の鳥調査隊の隊長としたい!」

 

 ところで、このころ。三田村家ではとある事件が持ちあがってもいた。長女の汐風は、妹の麗奈とちがって学業優秀で、問題一つ起こしたことがなかったが、突如として不良の男とはるばる北のハルビンに駆け落ちしてしまったのだ。一つ前の十一回目の世界では、銀行頭取の息子と見合い結婚させたはずが、十二回目ではなぜこうなったのか? 私は混乱し、激怒した。相手の男は虹口(ホンキュウ)で鬼瓦商会を営む昔なじみ、道頓堀鬼瓦の次男、凍(こおり)。つまり幼なじみだ。鬼瓦は「父の恩を息子が仇(あだ)で返すとは……」と泣いて土下座し、「息子の首を刎(は)ねて持ち帰る!」と急ぎハルビンに旅立ったが、案の定、若い二人にほだされ、小遣いもやり、手紙を預かってしおしおと戻ってきた。汐風の手紙には「お父さまへ。お母さまを葬った日の貴方(あなた)の涙を見て、わたしも愛に生きたくなりました。子供の頃から、好きで、好きで、大好きだったんです。さようなら」と書かれていた。私は「愛かぁぁぁ!」と伏して泣く鬼瓦と相談し、男には満鉄の経理職を、娘には新京の女学校の教師職を世話してやった。

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 この騒ぎと同時期に、石原莞…

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