「加速器」から生まれた桜 温暖化の日本へ

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合田禄
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 今年の桜前線は、10日の北海道・稚内、釧路でゴールを迎えた。私たち日本人にとって特別な花である桜は、さまざまな思いと結びついてきた。「世中(よのなか)にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし」。平安前期の歌人・在原業平はこう詠んだ。だが地球温暖化の影響で、日本列島はいつか、桜の咲かない春を迎えるかもしれない。

 代表的な桜の品種であるソメイヨシノは北海道の一部などを除く全国でよく見られるが、森林総合研究所多摩森林科学園(東京都八王子市)で桜の保全を担当する勝木俊雄チーム長によると、近年、鹿児島県の一部でうまく育たなかったり、開花しない花芽(かが)が出てきたりする例が報告されている。

 勝木さんは「木の衰弱や管理不足が原因のことが大半なため、慎重に判断する必要がある」としつつ、「温暖化の影響も考えられる」と話す。

 気候変動に関する2015年のパリ協定は、産業革命前からの世界の気温上昇を2度未満に抑えることを目指すが、日本の平均気温が、1980~99年に比べて2076~95年は4・5度上昇すると仮定すると、鹿児島と宮崎では桜は開花しなくなるという。気象庁が想定するいくつかの温暖化シナリオから最悪のものを使い、九州大の研究者が作った式で計算するとそうなる。

 業平が思いもしなかったであろうそんなことが、実際に起きるのか。それは現時点ではわからないが、先回りして、温暖化に耐える品種の開発が進んでいる。

 静岡県東部の裾野市。日当たりの良い斜面にずらりと並んだ品種「仁科乙女」が淡いピンク色の花を咲かせていた。11年に登録された品種で、切り花農家らに出荷する苗木だ。

 苗木を販売する農場を経営し、桜の品種改良に取り組む石井重久さん(60)は「温暖な静岡でも枯れず、花が長持ちする。もっと暖冬が続いても大丈夫な桜です」と説明する。

 桜が咲くには寒さと暖かさの両方が必要だ。前年の夏ごろには、翌春に咲く花のもととなる「花芽」ができる。その後、いったん休眠して成長が止まる。冬の寒さにさらされることで、花芽が目覚める「休眠打破」が起こる。花芽は春先の気温上昇とともに育って開花する。

 だが仁科乙女は低温にさらされなくても開花する。

加速器から誕生

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 数多い桜の品種の中でも、仁…

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