コロナ禍で臨時休館中 師弟の美術展を「蔵出し」

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松本紗知
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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの美術館が臨時休館に入っています。いったん始まったものの休止している美術展があれば、準備を整えたのに公開できていない展覧会もあります。息を潜めて公開の時を待つ、そんな美術展を紹介する「蔵出し美術展」を随時、掲載します。

 今回は、戦後の抽象彫刻を牽引(けんいん)し、東京スカイツリーのデザイン監修でも知られる彫刻家の澄川喜一(88)と、東京芸大で澄川に師事し、詩情に満ちた彩色の木彫作品を発表してきた深井隆(68)のそれぞれの展覧会です。師弟が創作活動にかけた思いとは。

 

木に魅せられて 澄川喜一

 横浜美術館の「澄川喜一 そりとむくり」展は、最新作を含む約100点の作品・資料で、澄川の創作活動の全容を振り返る。

 冒頭で、作家の原点として山口県岩国市の木造の名橋「錦帯橋」を紹介。少年時代にこの橋の美しさに魅了され、構造の研究と写生を重ねた。「いま木を使っていることは、ここがもとかもしれない」と澄川は言う。

 東京芸大で平櫛田中(でんちゅう)、菊池一雄に具象表現を学ぶ。その後、抽象へと関心を移し、1960年代からアフリカの仮面や日本の甲冑(かっちゅう)に触発された「MASK」シリーズを手がける。初期のものは表面にノミ跡を残した土俗的な雰囲気だが、次第に表面は磨き上げられ、ステンレスや石と木を組み合わせた作品も制作した。

 そして70年代後半、現在も続くシリーズ「そりのあるかたち」を初めて発表した。木の自然な曲線を生かし、絶妙なバランスで組み上げる。76年の半年間のヨーロッパ滞在が、改めて木と向き合うきっかけになったという。「ヨーロッパのものを盗んでやろうという気もあって行ったんですが、帰るとやっぱり木がいいなと。『俺は木をやろう』という覚悟ができた」

 日本の伝統的な造形にも通じる「そり」と「むくり」は、東京スカイツリーのデザインにも生きている。足元の断面は三角形だが高くなるにつれて円形になる。見る角度によって側面がそったりふくらんだりして見える様子は、会場では模型で確認できる。

 木を削って形を作り出すことから、木に内在する形を取り出すことへと転換した澄川。「木には人間と同じで、素性がある。ひねくれたのもいるし、素直なのもいる。この木はどんな素性か……と考えながら、木の良さに何とかして助けてもらおう、というのが本心なんです」

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