「警察は組織として恋心利用」無実の罪、晴らした弁護士

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聞き手・山口栄二
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 無実を訴え続けたにもかかわらず、殺人罪で懲役12年の判決が確定して服役を強いられた滋賀県の元看護助手、西山美香さん(40)にようやく再審無罪判決が言い渡された。冤罪(えんざい)はなぜ起きたのか。それを防ぐためには、何が必要なのか。弁護団長の井戸謙一さん(66)に聞いた。

 ――判決をどう感じましたか。

 「弁護側の主張をほぼすべて認めてくれたすばらしい判決です。判決の言い渡し後、裁判長が西山さんに『この事件は日本の刑事司法を変えていく大きな原動力になるでしょう。すべての刑事司法関係者がこの事件を自分のこととして受け止め、改善に取り組まなければなりません』と語りかけてくれたことは本当によかったです」

 ――弁護を依頼された時、最初は「断りたい」と思ったとか。

 「外形的な経緯だけを見ると正直なところ、とても再審請求が通るとは思えませんでした。警察は当初、高齢患者の人工呼吸器のチューブが外れてアラーム音が鳴ったのに、迅速に措置をせずに死亡させたとして当直看護師に業務上過失致死の疑いをかけていました。それが、当直の看護助手だった西山さんが参考人として『アラーム音は鳴ったのか』と警察から任意で事情を聴かれていたときに、自ら『チューブを外して殺した』と自白したのです」

 ――結局は引き受けました。

 「第1次再審請求を担当した弁護士が病気のため弁護活動ができなくなり、西山さんの両親は滋賀県内の弁護士事務所を次々と訪ねて弁護を依頼しました。しかしすべて断られたそうです。本人や両親が無実だと訴えている以上、だれかが弁護をしなければならないと思いました」

 「裁判記録を預かり読み始めると、西山さんがアラーム音が鳴ったと認めた後に、その撤回を求め『あれはウソだった』という内容の担当刑事宛ての手紙を深夜、警察署に持っていっていたことがわかりました。西山さんがアラーム音を消して犯行に及んだ殺人犯なら、アラーム音が鳴ったことを前提に進んでいた業務上過失致死事件の捜査を、高みの見物していればいいわけです。必死に『アラーム音は鳴っていなかった』と訴え続けた西山さんの姿は、真犯人なら絶対にしないであろう行動です。このとき、無実を確信しました」

 ――裁判官時代は主に民事事件や行政事件を担当していました。再審請求に不安はなかったですか。

 「確かに刑事事件は若いころに少し担当しただけで、経験はあまりありませんでした。まして、再審請求は担当したことがありません。法医学者に患者の死因に関する検討を依頼しても次々と断られて途方に暮れたこともありました。今思えば、抽象的な依頼の仕方が悪かったのです。若くて馬力のある弁護士が必要だと思い、京都の刑事弁護に意欲的に取り組んでいる若手弁護士に加わってもらいました」

恋心と自責の念、入り交じった末の「自白」

 ――西山さんは長期間の勾留や暴力的取り調べも受けていないのに、なぜ自白したのでしょうか。

 「背景には、西山さんのパーソナリティーの問題があります。発達障害の一つであるADHD(注意欠陥多動性障害)と軽度の知的障害があり、人に対する迎合性が強く、目の前の人との関係を保つためには後先を考えない行動に出る傾向がありました。3人きょうだいの末っ子ですが、2人の兄は成績が優秀だったのに自分だけ成績が極端に悪く、劣等感を抱きながら成長しました」

 「捜査が難航する中、新たに…

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