さらりと休校要請した首相 女を、子育てをナメている

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多事奏論・高橋純子(編集委員)

 3月11日、わが子に初めて言われた。

 「あの日のことだけは、感謝してる」

 9年前のあの日。東京・銀座の喫茶店を同僚と出た直後、強い揺れにおそわれ、早足で会社にとって返した。同僚は正面玄関をくぐり、私は立ち止まった。仕事に戻っていいのか? 子どもは当時小学校低学年。災害時には保護者が必ず迎えにくるよう言われていた。その時、そばにタクシーが止まり、人が降りた。よし、乗ろう。

 全校生徒が校庭に集められていた。いち早く自分の迎えが来たことに、子どもは驚いたような、ホッとしたような表情を見せた。そうだよね。保育園のお迎えはいつも最後だったし、平日は夕食を共にすることもほとんどないもんね――。取るに足りない小さな小さな思い出話。でも、仕事を投げ出す決断は、私にとっては重く苦しく、いまも後ろめたさを引きずっている。

 育児のキツさの根源は「正解」がわからないこと。なのに次々と決断を迫られ、責任を全部背負わなければならないこと。だから、できるだけ多くの選択肢を準備しておく。がまんや不利益を強いる時は、なぜそう決断したのか、根拠をきちんと説明できるよう心がける。そして最後は祈るしかない。想定外、対応不能の突発事案が起きないようにと。だが、はかなき祈りは通じず、先月27日、首相は突然宣言した。

 「全ての小中学校、高校、特別支援学校に、来週から臨時休業を要請します」

     ◇

 休校要請を知った時、2人の子を持つ同僚は足の力が抜け、下の子と手をつないだまま、その場にストンとへたり込んでしまったという。仕事と育児の両立が難しいのはもとより、いい担任の先生と出会って、子どもの確かな成長を感じて喜んでいたのに、こんな形で断たれてしまうのか、と。

 私は不思議で仕方がない。こ…

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