政治学の男性偏重あえて批判 東大准教授の疑問と反省

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聞き手・高重治香
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 日本では、政治家や官僚の大部分は男性という状況がずっと続いています。そうした状況を作り、守ってきたのは、誰なのでしょうか。昨年、「女性のいない民主主義」(岩波新書)を出版した東京大学准教授の前田健太郎さん(39)に話を聞きました。

 ――新型コロナウイルスへの対応として学校の一斉休校が急に決まり、子どもや親たち、特に母親にしわ寄せがいっています。こういう時、トップの政治家にもっと女性がいたら違う判断になったのではないか、と思ってしまいます。

 「日本は国会議員も地方議員も圧倒的に男性が多い国です。たとえば衆院議員の女性比率は約10%、参院議員は約23%です。世論調査や候補者調査を見ても、政治家が関心を持つ政策分野や支持する政策は、性別によって異なる傾向があります。このため、政治家が男性に偏っていると、女性の利益は代弁されにくいのです」

 ――女性の政治家を増やすことが必要ということですか。

 「それも大切ですが、政治家の男性偏重を正すだけでは不十分です。政策の企画や実施の仕事の多くは、官僚が担っているからです。行政組織の意思決定を担う官僚に男女比の偏りがあると、やはり女性の利益は政策に反映されにくくなります。今回の新型コロナウイルスへの対応も、首相をサポートする官僚に女性が多ければ別の選択肢が検討されたかもしれません」

 ――官僚も男性が多いのでしょうか。

 「日本では、国家公務員の管理職の大半が男性です。OECD(経済協力開発機構)諸国で中央政府の中間管理職の女性比率は2015年に約4割に達していたのに対し、日本でそれに相当する本省課室長レベルの女性比率はわずか約3%で、今日でも約5%にすぎません。そもそも国家公務員の女性比率自体が2割程度と国際的に見ても低いのですが、それを考慮しても極端です。深夜残業や全国転勤を伴う働き方は、家事育児の責任を多く負いがちな女性のライフスタイルと両立しにくく、女性の入省や昇進を妨げてきました」

「男性仕様」そんなに昔から?

 ――政治も行政も、女性が入っていきにくい仕組みになっているのでしょうか。

 「政治が『男性仕様』なのは、歴史的には、国家が主に軍事的な活動をする組織だったことに由来します。軍事が男性の役割とされたことから、政治も男性の役割とされました。20世紀には女性参政権の導入が進みますが、女性が立候補して選挙活動をしようとすると、伝統的な性別役割分業意識の壁にぶつかりました」

 ――ルーツは軍隊にあったのですね。

 「やがて福祉国家化が進み、教育、医療、福祉などといった政策分野ができてくると、公務員には女性が増えていきます。しかし、身分保障と引き換えに『職務に専念』するべき公務員として、家事育児を妻に任せる男性の方が有利だったのか、ある時期まで日本以外の先進国も高級官僚の大半は男性でした。その中で、欧米では1980年代以降の行政改革で、政治家の男女や人種のバランスと同様、官僚にも国民の構成を反映させる『代表的官僚制論』の考え方が導入されます。中央政府内に、政策に女性の視点を採り入れるための組織も生まれました」

 ――日本はどうでしょうか。

 「日本の行政改革では、特に1990年代以降、政治家がリーダーシップをとって官僚を統制することが重視され、官僚の男女の偏りにはあまり目が向けられませんでした。内閣府男女共同参画局は省庁間の調整が主な役割なので、諸外国ほどには女性の権利のための政策の推進力にはなっていないといわれています」

 ――それは残念です。

 「ただ、男女共同参画基本計画が国家公務員の女性管理職比率を30%とする目標を一時掲げたこともあり、近年では総合職の女性採用者は30%を超えるようになりました。組織の中で、下から徐々に女性が増えれば組織文化も変わっていくはずです。選挙制度の変更は政治家自身の利害にかかわるので簡単ではありませんが、公務員の採用方針は政治家が官僚の人事制度を変えれば動きます。男性仕様の政治を変えていくのには、公務員からの方が着手しやすいかもしれません」

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■政策は現場で作られる…

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