拡大する写真・図版海に向かってトランペットを献奏する臺隆裕さん=2020年3月11日午後1時26分、岩手県大槌町、西畑志朗撮影

 歩くと「きりきり」と音がするのが地名の由来ともされる岩手県大槌(おおつち)町の吉里吉里(きりきり)海岸。波音を伴奏に、トランペットの音が響いた。

 東日本大震災から9年の11日午後、今年も町出身のプロ奏者・臺(だい)隆裕さん(25)が、海に向かって「ふるさと」を「献奏」した。犠牲になった町民は1286人。3分の1がまだ行方不明だ。「高校の先輩ら、亡くなった方々への鎮魂の思い」を込めて毎年演奏するが、今年の心境は違った。

拡大する写真・図版金丸元さん(中央)、吉川武典さん(右)と一緒に、海に向かってトランペットを献奏する臺隆裕さん=2020年3月11日午後1時39分、岩手県大槌町、西畑志朗撮影

 「道路や家はできても、『文化』が戻らないと復興したとは言えないと思う。自分がその一役を担う」という決意がある。

 地元の県立大槌高校の吹奏楽部の練習中に被災。自宅は津波に流された。内陸に避難して戻った後、1カ月ぶりにトランペットに触れたとき、悲しみがこみ上げ、泣いた。父の隆明さん(57)は内陸に転校させようとも考えたが、仲間と一緒に部活を続けたいという隆裕さんの希望を聞き、練習しても迷惑にならないトレーラーハウスを空き地に建てて、家族で暮らすことになった。

 音楽の道を選んだのは、震災後…

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