風呂で見た海が父を奪った 津波になったおとうの悲しみ
窪小谷菜月
傘にあたる雨音よりも、徐々にウミネコの鳴き声が大きくなる。宮城県女川町。大学2年生の阿部佐那さん(20)は、海へ近づくにつれて笑顔になった。9年ぶりに来た女川の海。潮の香りを吸い込んだ。
海に面した赤い屋根の3階建てレストラン。包丁を握る父の義彦さん(当時43)は忙しく、話すのはいつもお風呂だった。「こうやってのぞけば海が見えるんだぞ」。言われた通り窓の外を見ると、家と家の間に海が見えた。湯船につかり、学校や友だちのこと、何でも話した。
進学先のことでけんかしたのも、お風呂の中だった。父の望みは、自分の母校でバトントワリングの強豪校でもある大阪のPL学園へ進むこと。でも佐那さんはバトンの教室を辞めたばかり。いかないと伝えると、父は「なんで?」とむくれた。「もう決めたから」。そう言って、先に風呂を出た。それが最後の会話になるとは思いもしなかった。
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翌日、小学校で揺れに襲われ…
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