分身ロボが運ぶ「私の心」 開発者がめざす孤独の解消

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緑川夏生
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 テクノロジーは「孤独」を救う――。離れた場所から会議や授業に出られる分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発した吉藤健太朗さん(32)=オリィ研究所代表=はそう言います。不登校の経験から、誰もが必要とされる「適材適所社会」をめざすようになったという、その志の中身を吉藤さんに聞きました。

1987年生まれ。奈良県立王寺工業高校に進み、2004年に「高校生科学技術チャレンジ」で電動車椅子が最高賞に。詫間電波高専(現香川高専)に編入し、人工知能を研究。07年に早稲田大学創造理工学部に進み、在学中の10年に遠隔操作で会話や反応ができる人型の分身ロボット「オリヒメ」の1号機を完成した。

 ――分身型ロボット「オリヒメ」を開発した目的を教えてください。

 小さいころから体が弱かったこともあって、「体が二つあればいいのに」って思っていました。もう一つあれば、自分の体に配慮できる。体が不自由でももう一つの体でさすったり、洗ったりと何かと便利だと思うんです。

 ――オリィ研究所は人々の社会参加を妨げている課題の克服をめざしています。「課題」とは?

 身体的、距離的、環境的な「移動の制約」がある人がいると考えています。例えば、介護をしなきゃいけない人、育児をしていて外出が難しい人などです。体をその場所に運ぶことを参加の前提としている社会を、私は「身体至上主義」と呼んでいます。友達と遊園地に行ったり、就職活動の面接だったり。体が弱い側の私は、すごく障害を感じています。

 ――そういった課題を乗り越える手段は?

 克服する方法の一つとして、体が動かせないのであれば「心」を運ぶような移動手段があってもいい、というのが私の考えです。高校時代、僕は車椅子の改良などをしていましたが、移動にはお金や時間などもかかるし、全部がバリアフリー化しているわけではありません。ならば、心を運べて自分が「ここにいる」と錯覚できる、かつ周囲も「いた」と感じられる――。その二つの認識があれば、「いた」ということにつながるのではないでしょうか。

 大学時代、僕は友人に頼んで講義室まで僕の分身ロボットを持っていってもらい、遠隔で講義を受けて単位をもらったこともあります。授業で寝ている人と、遠隔でも講義に参加して積極的に質問している人、どちらが「いた」ことになるのでしょうか。

 ――分身ロボットが今の形になるまでの過程を教えてください。

 はじめはディスプレーを付けて映像を出したりしていました。でも、「そこにいる感」はなかった。研究を進めて気づいたことは、情報量が多すぎても少なすぎても人の想像力がなくなってしまうということ。最初は関節を24個付けたり、3Dスキャンした自分のリアルな顔をかぶせたりしたけど、リアル過ぎて変な誤解を生んだりと自由がきかなくなった。今は適度に人間が想像力を働かせられる形になりました。

 ――研究所では人々の「孤独」の解決もめざしていると聞いています。なぜ、「孤独」を研究の対象に置いているのでしょうか。

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 不登校時代の経験です。私は…

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