第1回お父さんにぼう力を…逃げた心愛さん 現れた男に役所は
担任の教諭は驚いた。児童たちが書き込んだB4用紙に目を通していた時のことだ。1人の女の子がSOSを発していた。
2017年11月6日、千葉県野田市立山崎小学校の3年生のクラスで実施された「第2回 いじめにかんするアンケート(小学校低学年用)」。1時間目の授業が始まる前の朝、女の子は用紙の最後にある自由記述欄にこう書いていた。
「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたり たたかれたりされています。先生、どうにかできませんか」
女の子は約2カ月前に沖縄県糸満市からやってきた当時9歳の栗原心愛(みあ)さん。
いったいどういうことなのか。担任は用紙を学年主任に見せた。学年主任も校長に相談した。
翌7日朝。登校した心愛さんに担任が話を聞き、返ってくる言葉をアンケートの余白に走り書きした。
「きのうのたたかれた あたま、せなか、首をけられて 今もいたい」「あたま→なぐられる 10回(こぶし)」。心愛さんは父親の勇一郎被告(42)=傷害致死罪などで起訴=から受けた行為を次々と言葉にし、母親(33)=傷害幇助(ほうじょ)罪で懲役2年6カ月、保護観察付き執行猶予5年の判決が確定=のことも口にした。「おきなわでは、お母さんがやられていた」
校長は「虐待が疑われる」と野田市教育委員会と市児童家庭課に連絡。昼過ぎにやって来た市職員2人が心愛さんと面接し、右ほおのあざを確認した。「家に帰りたくない」。心愛さんはそう言った。
市職員は、野田市を管轄する県柏児童相談所に状況を伝えた。その後、柏児相から一時保護決定の連絡が入った。柏児相の一室で、心愛さんは「ママと妹が心配」と涙を流した。前日、アンケートに父親の暴力について書いたことを母親に打ち明けていた。
一方、市職員が勇一郎被告に一時保護を伝えると、勇一郎被告は「保護者に何の説明もないまま連れていくのはおかしい」と怒った。
心愛さんが昨年1月に虐待死したとされる事件で、傷害致死などの罪に問われた父親、勇一郎被告の裁判員裁判が21日、千葉地裁で始まった。勇気を出して父親からの暴力を訴えたにもかかわらず、亡くなった心愛さん。県柏児童相談所や野田市、市教育委員会、学校がなぜミスを重ね、幼い命を守れなかったのかを、県や市への取材、裁判の証言などをもとに探る。
父親「家で待っているよ」 心愛さんは
一時保護されたばかりの心愛さんの様子を、元職員はよく覚えている。
「本棚の整理、頼めるかい?」。そう声をかけられるとニッコリと笑い、「ハイ」と返事をして食堂の端にある本棚に黙々と向かいあっていた。おとなしく、トラブルも起こさなかった。
その心愛さんが感情をあらわにしたことがあった。
一時保護から約2週間たった11月22日。柏児相に勇一郎被告と母親が現れた。
心愛さんはそれまで、両親と…
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