下船「涙が出た」「孫にいつ会えば」 政府対応には賛否

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茂木克信 木下こゆる 武井宏之 吉野慶祐 吉村成夫 岩堀滋 斎藤茂洋
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 新型コロナウイルスへの集団感染が発生し、横浜港・大黒ふ頭(横浜市鶴見区)に停泊を続けていたクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号。19日に下船が始まり、乗客らは疲れた表情で帰途についた。近年、クルーズ船誘致を進めてきた横浜市も、影響の広がりに懸念を強めている。

 19日朝、船が着岸している大黒ふ頭には市営バス15台ほどが待機した。乗客を乗せ、午前11時10分ごろから順に出発。同40分ごろから横浜駅近くに着き、乗客は国土交通省の職員らに付き添われ、駅構内に向かった。一部が取材に応じた。

「まずおにぎり食べたい」

 「船の食事は肉中心。まずはおにぎりを食べたい」。娘夫婦と参加した栃木県日光市のそば店経営の男性(91)は語った。

 船は1月20日に横浜を出港、東南アジアを巡り2月4日に帰港予定だった。途中の香港で下りた客の感染が分かり、3日夜に横浜港に戻った。5日には乗員乗客3711人のうち10人の感染が判明、健康な人も14日間、船内にとどまることになった。男性は「店を1カ月閉めていた。早く再開させたい」と意気込んだ。

 妻と参加した静岡市駿河区の男性(73)は「船を下りて陸を踏んだ瞬間、涙が出た」。東京都内在住の娘から毎日届いた宅配便の差し入れの中に、小3の孫からの手紙も入っていた。「手紙に励まされた」と声を震わせた。夫と参加した名古屋市の60代女性は「子どもたちに心配をかけていたので、ほっとした。早くお風呂に入って寝たい」と疲れた表情で語った。

「最初から全員検査していれば」「仕方ない」

 全員を船内にとどめた政府の対応については賛否が分かれた。下船前日までに感染が確認された乗員乗客は542人。妻、92歳の義父と参加した男性(63)は「国はやるだけのことをやった」と評価した。「1カ所に集めた大集団の感染拡大を防ぐのは難しいと感じた。この経験を今後に生かしてほしい」

 一人旅だった群馬県の男性(78)は「あの状況では仕方ない。政府は可能な限りやったと思う」と言う。自室はテラス付き。「外の空気が吸えない乗客もいた。自分はましな方だ」

 夫(83)と参加した岡山市の女性(80)は、多くの感染者が出ても自室の近くか分からず、ストレスがたまったという。夫は一時、39度超の熱が出た。窓は開けられない構造で、船で知り合った他の客と船内電話で励まし合った。「最初から全員検査していれば、こんなことにならなかった」

 夫婦で参加した広島市の70代の男性は、ウイルス検査後に感染者が急増したため再検査を望んだが、かなわなかった。自分も周りも安心できるよう、帰宅したら再検査できる病院を探すという。「結果的に大量の感染者が出た。政府は正しい認識を持って対応してくれなかった」と憤る。

 妻と参加した千葉県市川市の男性(61)は下船を喜びつつ、こうつぶやいた。「孫たちにはいつ会ったらいいんだろう」(茂木克信、木下こゆる)

横浜市の観光戦略に影

 今回の事態は、クルーズ船の誘致に力を入れる横浜市の観光戦略に大きな影響を与えそうだ。

 「客船クルーズに対する不安が増えてしまうのは極めて残念だ」。横浜市の林文子市長は19日の定例記者会見で懸念を示した。

 香港で下船した客が新型コロナウイルスによる肺炎を発症したダイヤモンド・プリンセス号は3日夜に横浜港・大黒ふ頭沖に到着。感染拡大を防ぐため乗客乗員が5日以降、船内に14日間とどまることになったが、感染者は増え続けた。

 この影響で同船は横浜港発着の6回のクルーズを中止。このほか、日本政府が乗船している外国人の入国を拒否したウエステルダム号や、約17万トンの超大型船スペクトラム・オブ・ザ・シーズ号など、3月末までに5回の横浜寄港がとりやめになった。市港湾局には5月に横浜へ初入港する予定だったノルウェージャン・スピリット号などのクルーズ中止の打診が寄せられているという。

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 クルーズ船の寄港回数で横浜…

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