聖火がまちに 福島

 山を切り開いた丘陵地に約4ヘクタールの牧場が広がる。福島県葛尾(かつらお)村。1月11日夕、葛尾中3年の佐久間亮次君(14)は、父の哲次さん(43)と数十頭の牛を搾乳する小屋に誘導していた。バケツに入った搾りたての母乳を運び、子牛に「おいしいかあ」と飲ませた。

拡大する写真・図版搾りたての初乳を運ぶ佐久間亮次君=2020年1月11日午後5時2分、福島県葛尾村の佐久間牧場

 村は、東京電力福島第一原発から約25キロ離れた阿武隈山地にある。2011年の原発事故で全員が村外に避難した。村民約1400人のうち、いま村で暮らすのは約420人。亮次君の中学も生徒は8人しかいない。哲次さんは震災前、約130頭の牛を育てていたが、原発事故で全てを失った。

 昨年1月、哲次さんは出荷を再開した。亮次君は夏休みには早朝と夕方、父を手伝った。「午前5時に起きて眠いなあと思って牛を追っていると目が覚める。最後に子牛の世話をして『はあ終わったあ』と、その繰り返し」

 そのころ、先生が宿題として「みんなで挑戦しよう」と呼びかけたのが、東京五輪の聖火リレーだった。応募動機に「将来は、世界中の人たちに僕が育てた牛のミルクを飲んでもらいたいです。そのアピールをするためにもぜひ走らせてください」とつづった。

 昨年12月、学校から帰ると、…

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