和平案が映さない現実 「もう併合されたようなものさ」

有料記事特派員リポート

ヨルダン渓谷=高野遼
[PR]

 米トランプ政権が1月末、新たな中東和平案を発表した。公表された「地図」をみると、パレスチナ自治区の一部だったヨルダン渓谷が「イスラエル領」になっている。大きな賛否を呼び起こした和平案の注目ポイントだ。

 イスラエルのネタニヤフ首相が「ヨルダン渓谷の併合」を口にし始めた昨年秋、現場を訪ねた。パレスチナ人たちからは「もうここは、イスラエルの支配下。併合されたようなものさ」と諦めたような声も聞こえた。足元ではすでに、イスラエルの支配が着々と進んでいる現実がそこにはあった――。

 ヨルダン渓谷は、国境沿いに広がる戦略上の要所。イスラエルは米国の和平案を受けて早速、ヨルダン渓谷の「併合」に向けた政治的な動きをみせている。ヨルダン渓谷が名実ともに「イスラエル領」になることが、一気に現実味を帯びている。

1万人超の入植者

 エルサレムから車で1時間弱。一路、東へ向かう長い下り坂が続く。

 「マイナス300」と書かれた標識を通過し、やがて死海が眼下に広がる。湖面は標高マイナス430メートル。地球上で最も低い地表とされる場所だ。

 ヨルダンとの国境に沿って、ここから北へ約70キロにわたるエリアが「ヨルダン渓谷」と呼ばれている。現在はパレスチナ自治区の一部だ。ときおり轟音(ごうおん)が響き、上空をイスラエルの戦闘機が飛んでいく。

 ヨルダン渓谷を南北に縦断する「ルート90」を北上した。砂漠のような乾燥した土地が広がるなか、ナツメヤシの林が次々と現れる。ここはパレスチナでも、一大農業地帯となっている。

 現在、ヨルダン渓谷と死海北部地域には約6万5千人のパレスチナ人が住んでいる。だが、ユダヤ人入植地も多く、約1万1千人の入植者が暮らす。「ルート90」を進むと、左右には順々にパレスチナの集落と、ユダヤ人入植地が現れる。

「ここは私たちの故郷」

 まず向かったのは、ヨルダン渓谷で最初の入植地の一つとされるメホラ。創設者であるイスラエル・ナディビさん(72)を訪ねた。

ここから続き

 「ここに住み始めたのは19…

この記事は有料記事です。残り1259文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら