介護ヘルパー不足「国の責任」 現役3人が危機訴え提訴

有料記事介護とわたしたち

編集委員・清川卓史
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 「介護保険のホームヘルパーは、もはや絶滅危惧種」――。不安定な労働環境と極度の人材不足による苦境を訴え、現役ヘルパーの女性3人が、国の責任を問う裁判を起こした。必要な訪問介護サービスを提供できないなど、現場から伝わってくるのは介護崩壊の危機感だ。何が起きているのか。原告ヘルパーが働く現場を訪ねた。

一人暮らし増加 元日も休めず

 2020年の年が明けた元旦、福島県郡山市。佐藤昌子(しょうこ)さん(64)は午前10時から、要介護2の男性(66)が一人暮らしをするアパートを訪問していた。佐藤さんは原告ヘルパーの一人だ。

 男性は障害のため歩行が難しい。週5回の訪問介護、週2回の訪問入浴を利用して暮らす。介護できる家族はそばにいない。年末年始も生活援助を休むことはできない。

 訪問介護

 介護保険サービスの一つ。ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴・トイレ介助などの「身体介護」や洗濯・調理などの「生活援助」をする。ホームヘルパーの総数は約43万3千人で7割近くが非常勤だ(厚生労働省介護サービス施設・事業所調査」17年)。多くは登録ヘルパーと呼ばれる働き方で、サービスの利用状況に応じて一定期間ごとに決まる勤務表次第で労働時間が変わる。

 この日は、まずベッドのシーツや布団カバーを外して、毛布のほこりをはらった。洗濯機を回しながら、さっと室内を掃き掃除。「お正月だから餅が食べたい」という男性の希望を聞き、納豆餅と大根おろし餅を手早くつくった。つくりおきの厚揚げの煮物とひたしまめをそえベッド脇へ運ぶ。これが元日の朝食兼昼食になった。

 「うまい、うまい」と食べる男性を横目に、夕食のためのご飯やおかず、食器の準備も進める。トイレやベッド脇の尿器の洗浄、ストーブの灯油補充。文字通り休む間もなく動き回る。

 新しいシーツをかけて布団を整え、「はい、これで気持ちよく寝られるよ」と声をかけた佐藤さん。洗濯物を干す手をとめずに笑顔で雑談もする。そうした会話のなかで体調の変化に気づくこともある。

 身寄りがない。きょうだいがいても高齢。訪問先の大半が独居や老老介護だ。「自分では死ねないが、国が殺してくれるならそれでいい」と涙ながらに佐藤さんに言った高齢者もいる。「気持ちをぶつけられる相手はヘルパーしかいないんです」

 男性に話を聞くと、ヘルパーが来ない日は車いすで外出して弁当を買うが、雪が降ると出られず、2日間カップラーメンだけしか食べられないことも。「うんと助かってます。休まれると、ホントに困る。しょうこちゃん(佐藤さんのこと)だって正月は家族で食事したいだろうに、元日から人のおまんまつくってくれている。大変な仕事だと思う」

 所属する訪問介護事業所は、ヘルパーの年末年始休暇を確保するため、12月29日~1月3日にサービスを休んでよい日を尋ねる「お願い」を利用者に配布した。その期間は家族らで支援をしてもらえないか、という趣旨だ。だが「休み可」と回答した利用者は一部にとどまった。

 ヘルパー不足は顕著だ。厚生労働省によると、訪問介護職の有効求人倍率(18年度)は13.10倍に達した。全体の1.46倍、介護関係職種の3.95倍を大きく上回る。

 年末年始の休暇をとるヘルパーも当然いるが、人手はぎりぎりで交代要員はいない。佐藤さんのような「リーダー」ヘルパーらの負担がどうしても重くなる。佐藤さんは三が日も休まず、1月8日まで8日連続の出勤だった。

 移動を含めて拘束時間は長いが、時給は実際のサービス提供時間に対して支払われる。普段から週6日出勤だが手取りは20万円に届かない。移動費・ガソリン代は1キロ50円。ただ事業所によっては全く支払われないことも。かつて別の事業所にも登録していたとき、40分かけて到着した利用者宅でキャンセルが生じたが、会社は「仕方ない」の一言で、賃金は1円も支払われなかった。

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 元日の勤務を終え、夕方から…

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