35歳で阪大教授、藤井さんは量子ブームをどう見る

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聞き手・嘉幡久敬
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【科学力】

 量子コンピューターがにわかに脚光を浴びてきた。きっかけは昨秋、米グーグルが論文で発表した「量子超越」の達成だ。量子超越とは、デジタルコンピューターの最高峰であるスパコンをしのぐ計算性能を実現すること。政府は今年、今後の産業界発展の鍵を握るとして量子コンピューターを始めとする量子技術の研究開発の国家戦略を策定。さまざまな施策が始まる。量子コンピューターを動かすソフトウェア研究の第一人者で、昨春35歳で大阪大教授に就任した藤井啓祐さんに、今回の「量子ブーム」について聞いた。藤井さんはグーグルの論文を査読した世界で3人の研究者の一人で、国の戦略作りにもかかわった。

 ――現在の量子コンピューターの研究開発はどのような段階にあると考えればいいのでしょうか。

 グーグルは量子超越を実現することで、従来のデジタルコンピューターとはまった異なる原理で動く実用的な量子コンピューターが実現可能であることを、世界で初めて示しました。そして、飛行機開発の歴史になぞらえて「ライト兄弟による人類初の飛行」に例えましたが、まさにその通りだと思います。飛行機を開発するには、まず地上から飛び立てることを示さなければなりません。ライト兄弟が示したのは、ほんの一瞬ですが、人の重さとつりあう動力装置を積めば、人が乗った飛行機が重力にあらがって浮けるということでした。今回も同じ。最初の一歩を示したことが重要です。

 ――移動するだけなら浮く必要はなく、地上を行けばいいのではないでしょうか。

 馬車を使えばいいという考え方はあります。しかし、行き先が陸続きではない島なら、海を飛び越えていくしかありません。渡るだけの価値のある、渡れば何か御利益のある島があるから、飛行機の存在意義があるのです。量子コンピューターも同じ。現代のデジタルコンピューターはノートパソコンでもかなり高性能ですが、「量子」でなければならない用途がある。発展段階で性能が限られる量子コンピューターでも応用できる、手近な用途を見つける試みがすでに始まっています。「島探し」の試みと言えます。

社会システムの作り替えが必要

 ――量子コンピューターの実現は20~30年先と聞きます。

 飛行機の歴史は、ライト兄弟に始まってプロペラ機、ジェット機と発展し、それぞれの段階で実用化されて社会に貢献してきました。同じように、量子コンピューターも発展しながら応用もされていくと考えられます。「20~30年後」といわれるのは究極の量子コンピューターで、飛行する技術になぞらえればジェット機のさらに先の、月へ行くロケットのようなものです。一方、現在のレベルの量子コンピューターは「NISQ」(ニスク)と呼ばれ、30年後の究極の量子コンピューターとは区別されています。

 究極の量子コンピューターが動くことになれば社会は大きく変わることでしょう。それを前提として、社会システムを作り替えなければなりません。例えば従来の暗号が解かれることを前提に、量子コンピューターでも解くのが難しい耐量子暗号が提案されていますが、暗号システムを置き換えるには10年、20年かかるでしょう。

 ――グーグルの量子超越の実現は意外と早かったのでしょうか。

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 量子コンピューターの計算素…

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