高野裕介(ドバイ支局長)
一杯、そしてまた一杯。中東を旅していると、客人をもてなすために幾度となくお茶や水、ジュースが出される。昨夏、イスラム教シーア派中心の武装組織「人民動員隊」(PMF)の拠点を取材したときもそうだった。
PMFは親イランの組織で、米国とイランの対立の渦中にある。メディアにめったに露出しない「こわもて」の人たちだ。私はイランの影響力拡大を取材するため、イラク中部ナジャフにある拠点を訪れていた。
彼らの世間話に耳を傾けても、私は上の空だった。「時間がもったいない。早く取材を始めたい。訓練も見たいんだ」。こらえきれずに隣にいた支局スタッフの耳元でささやいた。いつもなら「わかった。適当に話を切り上げるから」と応じてくれるが、このときは違った。「せっかくもてなしてもらっているんだから焦らないで。これも取材を円滑に進めるためだ」とたしなめられた。
イラクではチャイと呼ばれる茶を一日に何度もすする。職場に着いて一杯、食事をした後に一杯、人の家に行って一杯……。もてなしてくれるのは本当にありがたいし、取材の合間にはつかの間の癒やしの時間でもある。
だが、問題が一つある。砂糖の量が半端じゃないことだ。カップの下に1センチも砂糖がたまって溶けきらないこともしばしば。「砂糖抜きで」と言い忘れると、強烈に甘い茶をすすることになる。現地の人に「糖尿病になるかもよ」と言っても、失笑されるだけだ。
PMFの取材の時ではないが…
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