多事奏論

 少し老けたが見覚えのある顔だ。

 中国で呼吸器疾病で有名な医師、鍾南山(チョンナンシャン)さん(84)である。感染が世界に拡大する新型コロナウイルスの調査に武漢市へ赴いた専門家チームのリーダーに就いていた。

 「ヒトからヒトへの感染が認められる」。習近平(シーチンピン)国家主席自らが封じ込めを指示した20日、国営放送の取材に対して当局が認めてこなかった懸念を初めて明言した。

 新型肺炎SARSと呼ばれていた重症急性呼吸器症候群が中国で蔓延(まんえん)した17年前。鍾さんは広州市の病院で治療にあたり、英雄視された。病診の正しさだけではない。実態を隠して幕引きを急ぐ政府に対して「医学的には抑え込んだとは言えない」と喝破した。地方政府などによるごまかしの手法も暴いた。「多くの同僚が倒れているのに、ウソはつけなかった」そうだ。

 当時、新米特派員として上海へ赴任したばかり。何が事実かわからない状況で取材していた私にも、印象深い人だった。

      ◇

 その鍾さんは、10年前の新型インフルエンザ騒動で再び登場した。各地を視察後、言った。「死者数の発表は信じられない。ごまかしている地域がある」「情報の透明性と公正さが感染拡大を防ぐ大前提」。彼は共産党員である。反体制というよりも、一人の医師、人としてのモラルを感じた。

 「なぜまた鍾南山なのか」――。

 前国家主席胡錦濤(フーチンタ…

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