賠償金詐欺、示された手書き図 「ただの詐欺ではない」

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小手川太朗
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原発賠償金を追う

 昨年2月、新幹線が止まる駅である男性と会った。白いキャップを深くかぶり、白いマスクをした小柄な体格で、時折周囲をきょろきょろと見渡しながら、改札前の柱の陰に立っていた。関係者を通じて連絡すると「何でも話す」と応じ、約束通り現れた。

 「原発賠償金の詐取事件を取材しています」。駅ビルのカフェで向かい合って、事件を取材していることを告げた。男性はマスクを外した。年齢は50代くらいだろうか。キャップはかぶったまま、こちらをじっと見つめ、声を潜めた。

 「これはただの詐欺ではない。もっと複雑で、組織的な事件なんです」

 東京電力福島第一原発事故の賠償金を巡る詐取事件。福島県警は昨年1月以降、ブローカーら男女6人を逮捕し、福島地検は11月7日までにうち5人を詐欺罪で起訴し、捜査を終結した。被害総額は約9億3千万円に上る。

 最初に立件した事件の舞台は、福島県郡山市にあった健康ランド「東洋健康センター」=すでに閉鎖=だった。原発事故で売り上げが減ったとうその申請をして、賠償金約2億3800万円をだまし取った疑いがあるとして、県警は昨年1月末、元社長の金孝尚被告(62)と、賠償金請求の代行をうたうNPO法人=すでに解散=の元職員の男(61)=その後不起訴、別の賠償金詐欺事件で受刑中=を逮捕した。

 「2人の認否や関係性は今後の捜査に関わるので話せない」。逮捕後、県警幹部は取材に固く口を閉ざした。

 男性に会ったのは、それからすぐのことだ。犯行グループの関係者と名乗り、匿名を条件に取材に応じ、「東洋(健康センター)だけじゃない。覚えているだけで50社は不正請求をした」と話し始めた。

 男性はB4版のコピー用紙に鉛筆で書いたチャート図を示した。図には15人以上の個人の名前や、10の会社名があり、「金孝尚」や「東洋健康センター」も含まれる。そのうち多くが県警に詐欺容疑での家宅捜索や関係者の取り調べを受けている可能性があると明かした。

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 男性は「福島県内の会社に不…

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