京アニ放火から半年 過酷な現場にいた市民や医師の証言

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大貫聡子 向井光真 川村貴大
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 36人が亡くなった京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、京都市消防局の消火・救急活動の全容がわかった。出火の9分後には最初の隊が駆け付け、24分後には建物内での救助活動が始まった。それでも逃げ遅れた人を救出することはできなかった。事件発生から18日で6カ月。過酷な現場の状況が浮かんだ。

 朝日新聞は当日の消火・救急の活動を記録した市消防局の資料を入手した。出火したのは昨年7月18日午前10時31分ごろ。青葉真司容疑者(41)=殺人容疑などで逮捕状=が1階に侵入し、ガソリンをまいて火をつけたとされる。約2分後から計22件の119番通報が寄せられ、同40分には最初の隊が現場に着き、同43分には別部隊も到着して放水を始めた。

 出動指令は翌朝の鎮火まで第27次に及び、市内全域から消防隊や救急隊などのべ111隊が出動。約400人の隊員が消火・救急活動にあたった。

 建物内には京アニの役員・社員が計70人いた。放火から7分間に、37人は建物の外へ脱出した(うち3人は搬送後に死亡)。救急隊の到着時、負傷者は建物周辺の公園や駐車場、路上など4カ所に分散していた。手当ての優先順位を決めるトリアージは10時44分から4カ所で始まった。後から体調不良を訴えた1人を除く35人は11時30分までに重症の赤が10人、中等症の黄が6人、軽症の緑が19人と判定し、8病院に搬送した。

 建物内に取り残された人の救助活動は難航した。1階に入れたのが10時55分。猛烈な熱さで屋内での捜索は約10分間が限度で、各隊は交代しながら、1階から2階、3階の順で捜索の範囲を広げた。屋上に上った救助隊が塔屋の扉を外側から開けたのは午後1時45分。扉の向こうの3階と屋上を結ぶ階段には、20人が折り重なるように倒れ、すでに息はなかった。遺体はいずれも損傷が激しく、現場で死亡した33人すべての遺体を運び出し終えたのは午後9時12分だった。

 京都府警によると、青葉容疑者は介助があれば体を起こせるまで回復し、会話はできる状態にある。京都市内の病院で治療、リハビリ中で、府警は適切な医療態勢を確保して、勾留に耐えられると判断できれば、逮捕に踏み切る方針。(大貫聡子、向井光真)

過酷を極めた火災現場で何が生死を分けたのか。どうすれば被害の拡大を防げたのか。京都市消防局の活動記録や、救助に携わった市民や医師らへの取材から教訓を探った。

 「ドーンという爆発音がして煙が出ている」「けが人が大勢いる」

 京都市消防局に119番通報が入ったのは昨年7月18日午前10時33分。最初の出動指令が出るまでの2分間に22件の通報が寄せられた。京都市中心部の高所カメラの映像でも大量の黒煙が確認され、11隊が現場へ向かった。

 「火事だ。やばい」

 京都市伏見区の第1スタジオの西側で工事をしていた駐車場施工会社「SAT」(大阪)の大川武志さん(58)と、高橋龍児さん(39)は、同僚らと建物へ向かった。すすだらけの男性が、もくもくと黒煙をあげる建物3階の窓から脱出し、外壁にへばりつくようにして逃げていた。「足が半分かかるかどうか」(市消防局)の細い外壁の出っ張りだけが頼り。窓からは火の手も上がっていた。

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