土地、捨てられないの? 表面化する弊害、専門家に聞く

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畑川剛毅
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 法務局にある登記簿を見ても、その土地の持ち主が誰だか分からず、分かっても連絡がつかない土地を「所有者不明土地」と呼びます。さまざまな弊害が表面化しているこの問題の解決に向け、土地の扱いを根本的に見直そうと民法改正に向けた議論が急ピッチで進んでいます。相続時の登記の義務化など、明治時代以来の大幅な制度変更になりそうです。専門家に取材し、Q&Aでまとめました。

放置すると北海道規模に

Q 「所有者不明土地」は、全国にどれくらいあるの?

A 民間団体が国土交通省の地籍調査から推計した数字がある。地籍調査の対象の2割が、ここでいう「所有者不明」で、それを全国に広げると410万ヘクタールに達する。九州の面積が370万ヘクタールなので、すでに九州の面積を超えている。今のまま制度を変えないでおくと、2040年に720万ヘクタールになり、北海道本島(780万ヘクタール)に迫る広さになるという。

Q 九州を超えると言われると驚くけれど、土地の持ち主が分からないことの何が問題なの?

A 注目されたのは東日本大震災。津波被害で高台に集団で住まいを移そうと移転事業を進めたけれど、一部の土地の持ち主が分からず、遅れが生じたり、場所を変更したりした。このほか、公共事業で道や施設を造ろうとしても、一部の持ち主が分からず、用地買収を断念したとか、民間事業者がいくつかの土地を集約して再開発を進めようとしても、土地がものすごい数の人に共有されていて、全員の同意が取れなくて途中で頓挫するとか、全国で弊害が表面化している。

 民間団体の試算だと、経済損失は年1800億円にのぼり、40年までの累計で6兆円に達するという。

Q それで、どんな議論が進んでいるの?

A 昨年春から、法制審の民法・不動産登記法部会に専門家が集まり①所有者不明の土地をこれ以上発生させない予防策②現在の所有者不明土地を利活用する対策の2本柱で制度改正の検討が進められている。最近、中間試案がまとまった。

 専門家の間でも議論が分かれる問題については、中間試案では「甲案」「乙案」など、相違点も含めて明記され、パブリックコメントを募っている。

相続登記の義務化

Q 具体的には、どんなふうに変わるのかな?

A ①の予防策で大きな変更点の一つは、相続時の土地登記(相続登記)を義務化し、一定期間に登記しないと過料を科す方向が示された。明治時代に登記制度が出来て以来、相続登記をするかどうかは所有者の判断に任せてきたから、その考えを百八十度転換することになる。

 民法が制定された頃、日本は農業国で、土地はとても大切な生産財だった。だから、「この土地は私のものだ」と公的に証明してくれる登記制度は黙っていても使われるだろう、だから登記したい人がすればいいという任意の制度になった。

 時代は移り、相続する土地が必ずしも価値のあるものではなくなった。例えば、高度成長期に都会に出てきた人の親が亡くなっても、出身地に残された農地や山林、自宅は、固定資産税がかかるだけの「負の遺産」になってしまうことも珍しくない。登記にはそれなりの手間とコストがかかるから、土地の価値を上回るケースが増えている。そんな中で登記を促すには義務化して、登記を任意から強制に切り替えるしかなくなったといえる。

Q 義務化されても、コストが上回ることに変わりはない。義務化したからといって、みんなが相続登記するかな?

 そうだね。過料が科せられるといっても、過料額より手数料などコストの方が高ければ、現状とそんなに変わらない。そこで、義務化の実効性を確保するため、法定相続人が氏名・住所を法務局に申告するだけの「相続人申告登記」という制度を新設する。相続登記に不可欠な持ち分の記載がなく、戸籍謄本など申告に必要な添付資料も少なく、手数料も安いから、登記する側の負担は軽くなる。

 一方で、相続登記をすれば税の減免措置が受けられるなどの優遇策も検討されている。

Q 予防策の目玉は、登記の義務化だけなの?

A もう一つの目玉として、「土地は捨てられるか」が議論になった。相続人が土地の所有権を放棄し、公的機関が持ち主になれば所有者不明土地は生まれないからだ。中間試案では、条件付きで個人に所有権放棄を認め、国が所有権を持つ方向が打ち出された。

 明治以来、土地は価値のあるものとみんな思ってきたから、捨てるという発想がなかった。だから「土地を捨てることが出来るのか、つまり土地の所有権を放棄できるのか」については、民法の中に明確な規定がなく、21世紀になって、不要になった土地を捨てたいけど、国が引き取ってくれないと裁判にもなっている。

Q 土地も、粗大ゴミのように捨てることが出来るんだ。すごいね!

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A ちょっと待って。そんなに…

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