お酒の機会が増えるこの季節。とは言え、「とりあえずビール」も今や昔。ノンアルコール飲料を売りにしたレストランやバーが相次いで生まれている。酒離れや健康志向の高まりが後押ししているようだ。

 東京・六本木ヒルズのフランス料理店「レグリス」。12月中旬、照明を落とした店内で、ソムリエの波多野香織さん(44)が、ビールに似た黄金色の飲料をグラスに注いでいた。

 「アルコールは一切入っていませんが、お酒のような味わいです」。英国で人気のノンアルコール炭酸飲料「シュラブ」だ。ビネガーにハーブやスパイスを漬け込み、甘みがないのが特徴だ。

 店では、コース料理に合わせてソムリエが相性の良い飲み物を選ぶ「ペアリング」を採り入れる。通常は、数種類のワインから選ぶが、波多野さんはシュラブからも選ぶ。かつて勤めたバーで自家製ノンアルを出し、手応えがあった。

 11月下旬のオープン以降、注文はまだ少ない。初めて口にしたという東京都大田区の会社員、白石翠さん(26)は「鶏肉の味が引き立った」と話した。酒が苦手ではないが、友人との食事ではもっぱらノンアル。「人前で酔うのは恥ずかしいし、メリットが少ないので」

 2月には、アルコール度数の低さを売りにしたバー「Low―Non Bar」(東京都中央区)も東京駅近くにオープンする。度数5%以下が中心の低アルコールカクテルとノンアルカクテルを約20種ずつそろえ、ノンアルカクテルだけの日も設けるという。

 経営するのは、バーテンダーとしてカクテルの世界大会で優勝経験がある宮沢英治さん(42)だ。都内を中心に七つのバーを展開している。健康のため、3年前からお酒を一切飲んでいない。他の店を巡る中で、アルコールがなくてもバーの雰囲気は楽しめると気づいた。「技術があれば、アルコールのないカクテルでも客を魅了できる」と自負する。

 ノンアル専門の輸入商社「アルト・アルコ」(東京都荒川区)は2018年夏に設立。ワインの輸入商社に勤めていた安藤裕社長(28)は英国でのノンアルブームを目の当たりにし、「健康志向の強い日本でも商機がある」と見込んだ。

 「飲まない」人たちにも変化がある。

 投資信託会社「レオス・キャピタルワークス」を経営する藤野英人さん(53)は昨年6月、酒を飲まない人たちが情報交換する集まり「ゲコノミスト」をフェイスブックに立ち上げた。メンバーは徐々に増え、1900人を超えている。

 下戸の藤野さんは「当然のように渡されるワインリストを断るたびに、肩身の狭い思いをさせられた」。お酒を飲まない食事会「ゲコナイト」を都内で2度開催。会費は1人2万円だったが、定員(16人)はすぐ埋まった。「酒離れや健康志向の高まりを考えると、ノンアル市場は投資家としても魅力的だ」と話す。(鶴信吾)

■「酔うこと」よりも雰囲気…

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