盗まれた世代、母と引き離され 私を取り戻すために歌う

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メルボルン=小暮哲夫
【動画】「私は先住民のソプラノ歌手」と語るデボラ・チータムさん=ミワ・ブルマー撮影
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〈私は○○人〉オーストラリア デボラ・チータムさん

 オーストラリアでラグビーと並ぶ人気を誇るオーストラリアンフットボール。南東部メルボルンで行われる年間王者決定戦では毎年9月、スタジアムに10万人の観衆が集まる。

 そこでオーストラリア国歌を歌うことは、歌手として大変な名誉だ。だが、オペラ歌手のデボラ・チータムさん(55)は、そのオファーを断った。

 「我々は若くて自由だ(we are young and free)」

 主催者から打診があった2015年、この歌詞の一節を「平和で調和した(in peace and harmony)」と言い換えて歌いたいと提案したが、拒まれたからだ。

 チータムさんには、先住民(アボリジナルピープル)の血が流れている。歌詞が想像させるのは、英国が入植を始めた18世紀以降の歴史。だが、先住民は6万5千年以上前からこの大陸に住んできたと言われる。「私たちの文化は、世界で最も長く続いてきた。若い国ではない」。先住民にとって入植開始は、社会や文化を否定される苦難の始まりだった。

 チータムさんは、白人と同化させる目的で、先住民の子どもたちが強制的に家族と引き離された「盗まれた世代」の一人だ。

 1964年、先住民である母は、白人の父との間にチータムさんを身ごもったが、父は家族に結婚を強く反対され、母を見捨てた。

 母はキリスト教系の孤児院に…

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