第6回盗聴回避、カップ麺土産に夜回り…大使館員のソ連情報戦

有料記事外交文書は語る 2019

聞き手・佐藤達弥
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 当局の監視、盗聴を避けながらの情報収集。ハニートラップのわな。高官宅への夜回り……。冷戦末期のソ連で、スパイ映画さながらの活動をしていた日本人がいた。25日に公開された外交文書では、在ソ連大使館の外交官が作成したソ連に関する分析リポートが公開された。作成者の一人だった角崎(つのざき)利夫さん(71)と、同じ冷戦末期に在ソ大使館員だった作家の佐藤優さん(59)に、ベールに包まれた活動ぶりを聞いた。

角崎さん「拍手の数を数えた」

 在ソ大使館でソ連政治の情報収集を担う政務班長を1987年まで務めた角崎さん。自身の「ソ連在勤を終えて」と題した報告書が今回公開された。執筆時は39歳の若手外交官。その後はカザフスタンセルビアで大使を歴任した。

 ――当時のゴルバチョフ書記長が進めたペレストロイカ(改革)について、報告書で「空回りしている」との見立てを示していますね。ソ連人から聞いた話として、改革を皮肉るジョークも記されています。あるチュクート人(ロシア極東の民族)が「加速化の時代だ」と一輪車を押して走り回っている。「なぜ空の一輪車なのか」と聞かれ、彼は答えます。「忙しくて荷物を積む暇がないんだよ」と。

 おそらく、当時意見交換していたソ連人の研究者やジャーナリストといった人たちから聞いた話だと思います。当時の日課は二つありました。一つは、新聞や雑誌の分析です。もう一つは、とにかく色々な人に会うことでした。

 公開情報というのは新聞や雑誌です。大使館では共産党や政府、労働組合の機関紙など4紙を読み込んでいました。たとえば写真で、誰が最高指導者に近い位置に座っているのかを見る。誰がどういう順番で偉いのか、その順番は過去と比べて入れ替わっていないのかを確かめるためです。

 指導者の演説文を読むときは「拍手」という単語がいくつ挿入されているかを数え、過去の演説文と比べます。拍手の数は威信の強さを表すからです。欧米との関係改善や軍縮など、ソ連の新たな動きをチェックすることも大事な仕事の一つでした。

大事な話は歩きながら

 ――もう一つ、人に会うというのは?

 ソ連人の研究者やジャーナリスト、他国の駐ソ外交官らに意見交換を申し込み、週数日は会っていました。レストランなどでの会話は、隣の席のお客や店員が聞いていたら当局に情報が抜けるかもしれない。具体的な人名などは挙げず、「例の件で」とか、「Aさんが」「Bさんが」といった言い方をします。

 もっと大事な話をする時は、必ず歩きながら。室内だと誰かに盗み聞きされている可能性があるからです。あとは、「箱」の中で話すこともありました。

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 ――ハコ?…

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