中国人の日本語作文コン、最優秀賞に潘さん 五輪テーマ

北京=高田正幸
【動画】「中国人の日本語作文コンクール」で最優秀賞(日本大使賞)を受賞した上海理工大学院の潘呈さん=高田正幸撮影
[PR]

 第15回「中国人の日本語作文コンクール」(主催・日本僑報社、メディアパートナー・朝日新聞社)の表彰式が12日、北京の日本大使館で開かれた。最優秀賞(日本大使賞)には、上海理工大学院の潘呈さん(26)の「東京五輪で誤訳をなくすため、私にできること」が選ばれた。

 コンクールは日本に半年以上の留学経験がない中国人学生が対象。東京五輪・パラリンピックを来年に控えた今回は「東京2020大会に、かなえたい私の夢!」などが募集テーマで、中国各地から計4359作品の応募があった。

 最優秀賞の潘さんは、今春、日本を訪れた際、街頭のゴミ箱に書かれていた中国語が間違っているのを発見した経験を通じ、人工知能による自動翻訳が普及しても、東京五輪ではまだまだ人の手による翻訳が重要であると考えたことを作文にした。

 潘さんは表彰式で「翻訳者の卵の私にもできることがあると考えている」と日本語でスピーチし、ボランティアとして東京五輪に関わる目標を語った。(北京=高田正幸)

 最優秀賞(日本大使賞)を受賞した上海理工大学院の潘呈さんの作品「東京五輪で誤訳をなくすため、私にできること」の全文は次の通り。

     ◇

 2020年オリンピックの開催地が決定された2013年9月、私はその様子をニュースで見ながらこう思った。東京で五輪が開催される暁には、中国語と日本語の翻訳品質を向上させるボランティアの仕事をしたい。以来、私はこの夢を心の中に抱き続けてきた。

 あの日からもう6年近く経つ。この間、人工知能がいよいよ発達し、自動翻訳ソフトの正確さも増してきた。日常生活でよく使われる挨拶くらいなら問題なく訳されるため、現在では多くの訪日外国人がスマホなどで使える自動翻訳ソフトを用いて、言語の壁をやすやすと乗り越えている。翻訳者の仕事は近い将来、コンピューターの機能に取って代わられるのだろうか?

 今年4月、東京へ行った。私がスカイツリー付近でゴミ箱を探していると、面白いことを発見した。あるゴミ箱に「ぺットボトル」という表示があったが、その下の中国語訳が「寵物・瓶子」になっていた。文字通りならここに「ペット」を捨てていいことになる。日本の街角で見かけた誤訳はこれだけでなかった。その後大阪に行った時も、大阪メトロの駅名や路線名の誤訳を目にした。勿論、この種の誤訳は日本のみならず中国でもよく見られる。中国のある観光地では「安全出口」という表示が、「安全に輸出します」という日本語に訳されていた。日本語の「出口」の意味が中国語への直訳で「輸出」となり、両者が混同されていたのである。これらの誤訳はおそらく自動翻訳ソフトの使用によるものだ。確かにこういったソフトを使えば翻訳効率はアップするが、逆に混乱や誤解の原因にもなってしまう。現代の異文化コミュニケーションにはこうした意外なバリアが生み出されている。

 例えば日本語の「いただきます」は、自動翻訳ソフトを使うと「我開動了」となる。これは「これから食事を始めます」の意味だが、それだと単にご飯を食べ始める合図に過ぎない。そもそも日本語の「いただきます」には「命をいただいてありがとう」という感謝や、「命を奪って申しわけない」という謝罪の気持ちが含まれる。この一言に日本人の生命観や社会観が色濃く反映されているのである。翻訳とは言語Aを言語Bに変換するだけのものではない。文脈の適切な理解と、文化への深い造詣が必要だ。このことに気がついた私は、まだまだ人間の翻訳者の生存空間はある、と思い直すようになった。

 2020年東京五輪では非常に多くの観戦客が東京に来る。彼らは五輪会場以外もあちこち見て回るだろう。彼らが翻訳に由来するトラブルに遭わないように、翻訳者の卵である私にも何かできるのでないか。具体的な提案として、オリンピックの公式サイトやSNSのアカウントを利用し、日本文化や東京五輪に関する用語の正確な翻訳を提供するサービスを実施してはどうだろう。

 一例として、馬術競技に「ジャンプ」と呼ばれるハードルレースがある。これを「跳躍」と中国語に直訳したら、単に「跳ぶ」の意味となるし、下手をすると日本の有名漫画週刊誌を連想させてしまう。別な例として、日本に「ジェット桐生」というあだ名の陸上選手がいる。「桐生」と「気流」をかけた言葉遊びであるが、中国語には直訳できない。こうした翻訳上の問題点や課題をクリアするために、ネットを通した情報発信を活用できるはずだ。またネット技術を使い、広範な人々に協力してもらえば、誤訳が見つかるたびにそれを正しい訳文に直すサービスも可能だろう。

 今年は令和元年である。「令和」という元号には人々が美しく心を寄せ合うという思いが込められている。この令和2年目に開催される東京オリンピックを成功させるためのボランティアとして、私は上記のようなサービスの中で中日翻訳の能力を生かし、お手伝いしたい。それに、五輪を機に訪日する人々に翻訳を通して正しい情報を提供することは、五輪精神にも適うし、中日関係をはじめとする国際交流にも貢献できる。今の私はこの夢が実現することを願っている。

 第15回「中国人の日本語作文コンクール」(主催・日本僑報社、メディアパートナー・朝日新聞社)の主な受賞者は以下の通り(敬称略)。

 【最優秀賞】

 潘呈(上海理工大学院)

 【1等賞】

 龔緯延(西安電子科技大)▽朱琴剣(西北大)▽韓若氷(大連外国語大)▽呂天賜(河北工業大)▽趙文会(青島農業大)

 【2等賞】

 薛煦堯(南京郵電大)▽孫弘毅(中国人民大)▽蒯瀅羽(大連外国語大)▽劉韻雯(華東師範大)▽劉偉婷(南京農業大)▽鄭孝翔(北京第二外国語学院)▽王婧楠(蘭州大)▽鐘宏遠(恵州学院)▽王駿(武漢理工大)▽全暁僑(東北大学秦皇島分校)▽李静嫻(合肥学院)▽臧喜来(北京理工大付属中)▽林鈺(上海海事大)▽王禹鰻(西華大)▽呉雅婷(西安翻訳学院)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら