(聞きたかったこと 広島)弟の手を握り逃げた

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八田智代
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 兵庫県加古川市の小林愛子さん(81)は、日本球界初の3千本安打を達成した元プロ野球選手・張本勲さん(79)の姉だ。7歳のとき、比治山(現・広島市南区)のふもとの自宅で被爆。「勲を連れて、はよ逃げんさい」。母の声に押され、5歳だった勲さんの手を握り、遠くへ、遠くへと逃げた。昨年の秋、原爆について初めて弟と言葉を交わしたという。74年前の体験と、その後を聞いた。

 原爆投下時、母と中学2年の兄世治(せいじ)さん、小学5年の姉点子(てんこ)さん、愛子さん、勲さんの5人暮らしだった。兄と姉は勤労奉仕に出ていて、自宅には母と愛子さん、勲さんの3人がいた。家が崩れ、愛子さんと勲さんに覆いかぶさった母はガラスの破片が背中や足に刺さって血が流れた。

 母はその場に残った。兄と姉が戻った時、自分がいないと路頭に迷うと思ったからだ。愛子さんは勲さんの手を取り、大人たちが逃げる方向へ逃げた。しゃべりもせず、泣きもせず、黙々と歩き続けた。薄暗くなった頃、橋のたもとに座っていると、知らないおじさんが白米のおにぎりをくれた。2人で食べて、気を失ったように眠った。

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 途切れ途切れの記憶の中で…

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