夕食会「5千円はホテル側が設定」 首相が異例の釈明

菊地直己 吉川真布

 安倍晋三首相が15日夜、首相官邸で20分を超える異例の取材に応じ、「桜を見る会」に首相の地元有権者が多く招かれていた点などを釈明した。野党などが追及する政治資金上の疑惑などを否定したが、具体的な証拠は示さず、疑問は残ったままだ。今後、首相が国会での説明責任を果たすかどうかが問われる。

 15日午後6時20分過ぎ、首相官邸の入り口で待つ記者団の前に姿を現した安倍晋三首相は、早口で質問に答えていった。

 「政治資金規正法上の違反には当たらない」

 「(桜を見る会の前日の夕食会の)会費については、(参加者の)大多数が当該ホテルの宿泊者であるという事情などを踏まえ、ホテル側が設定した」

 普段は、記者団の取材に応じても数分で終わるが、この時は20分を超え、桜を見る会の問題だけで約30問に対応。正午過ぎの1回目に続き、同じ問題で、この日2回目の取材対応となったことも異例だった。

 桜を見る会をめぐり、首相が国会で答弁したのは8日が最後だ。「私は、招待者の取りまとめなどには関与していない」などと述べていた。

 その後、首相の事務所名で桜を見る会を日程に含んだ観光ツアーの案内文書が、地元有権者に届いていたことが発覚。会の前日には首相夫妻同席で、都内の高級ホテルの「ホテルニューオータニ」で1人5千円で夕食会も開いていた。

 公的行事の「私物化だ」などとして、野党などが批判。政府は、来年度の開催を中止し、招待基準などを全面的に見直す方針に転じた。招待者を取りまとめる際、首相を含む官邸幹部や与党に推薦を依頼していたことも認めた。

 それでも批判は収まらず、首相自らが出て釈明する事態に追い込まれた。

 首相は15日には、招待者の増加について「長年の慣行とはいえ、私自身も反省しなければならない」と口にした。ただ、首相自身が国会で説明する考えについて記者団から問われると、「ぜひみなさんもいまここで、もしご質問があるのであれば聞かれたらどうかと思いますが」と切り返し、国会での説明は最後まで約束しなかった。

 自民党幹部も首相の説明の場となる予算委員会の開催には否定的だ。同党ベテラン議員は言う。「桜を見る会の問題はさすがにまずい。首相が火だるまになることは目に見えている。予算委なんかに応じられるわけがない」

識者「精算書示さない限り国民納得せず」

 立憲民主党など野党統一会派と共産党などでつくる追及チームは15日午後、桜を見る会に関連する10項目の公開質問状を首相の事務所に持参した。

 これにどう対応するのか。首相は同日夜、記者団に対し、「いま(記者団に)お答えしたことが、ほとんど全てではないか」と語り、回答に消極的な姿勢を示した。

 だが、首相は野党の質問に正面から答えたとはいえない。質問状は、今年の桜を見る会に首相の事務所の紹介で参加した人数や、功績・功労の有無を参加条件にしているか否かなど、首相と同会の関係を具体的にただしたが、首相から言及はなかった。

 野党が追及を強める夕食会をめぐる収支報告書の未記載や公職選挙法違反といった疑念や疑惑も同様だ。そもそも夕食会の参加者が何人だったのか、料理や設営など全体の経費はいくらかかったのかなどの具体的な内容は、首相の口からは明かされなかった。

 政治資金に詳しい岩井奉信・日大教授(政治学)は「首相は言葉で否定しただけ。これでは何も事実は明らかにならない」と指摘。「ホテル側の計算書なり精算書を求めて、提示されなければならない」と話す。ホテル側のかかった経費や、得た利益が分かるような詳細な精算書を示さない限り、国民が納得できる説明にはつながらないとの見方を示した。

 首相の説明を野党も批判する。共産党の小池晃書記局長は、朝日新聞の取材に「慌てて火消しに走ったが誰が納得するのか。逆に火に油を注ぐ結果となった」との見方を示した。「証拠を示さずまた人のせいにする。官僚の次はホテルか」とも語り、森友・加計学園問題をめぐる政権の対応との類似性も指摘した。

 これまでの国会審議では、野党が提出を求めている桜を見る会の招待名簿を内閣府や内閣官房が「廃棄した」などとしており、実態の解明は進んでいない。立憲民主党の安住淳国会対策委員長は「首相が一方的に話した内容と我々の認識に大きなずれがある」と述べ、追及を続ける考えを示した。(菊地直己)

保存期間の規定、適用は先月から

 「桜を見る会」の招待名簿が廃棄された問題で、NPO法人の「情報公開クリアリングハウス」(三木由希子理事長)は15日、内閣官房と内閣府が廃棄の根拠とした保存期間の規定は、今年10月28日から適用されたものだったと指摘した。

 内閣府は今年の紙の名簿は「5月9日に廃棄した」と説明しているが、その時点では規定はなく、同法人の問い合わせに、内閣府は15日夜、「誤解を生まないよう(規定の)書きぶりを整理した」と説明したという。

 内閣府の担当者は13日の野党の会合で文書管理の規定上、招待名簿は「関係行政機関等に協力して行う行事等の案内の発送等」にあたると説明。同法人がこの規定を調べたところ、適用が始まったのは10月28日だった。規定がなくても、1年未満で名簿を廃棄することはできるが、その場合はいつ廃棄したか公表する決まりだ。公表された中に招待名簿はなかったという。(吉川真布)