カンヌにこだわった住職 「きれいなところばかりでは」

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三浦惇平
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 2人の僧侶の人生を描いた映画「典座―TENZO―」(62分)が今年のカンヌ国際映画祭で上映され、脚光を浴びている。津市の僧侶が中心となって企画、周囲の反対も押し切り、カンヌへの出品にこだわった。そこに込められたのは「宗教への抵抗感を払拭(ふっしょく)したい」との思いだ。

 「映画なら、ふだん交流のない人や価値観が違う人に、世界規模で発信できると思った」。プロデューサーを務めた津市の四天王寺住職、倉島隆行(りゅうぎょう)さん(42)は話す。全国曹洞宗青年会長に就任した2017年、青年会として映画制作に取り組むことを決めた。

 タイトルの「典座」は、禅宗で食事をつかさどる役職を指す。作品の主人公は2人の僧侶。東日本大震災で家族や住宅を失った兄弟子、食物アレルギーの息子を育てる弟弟子のそれぞれの苦悩を描く。

 倉島さんは、23歳であえて仏教国ではないフランスドイツで修行。そこで暮らす仏教徒らが出勤前、軽く座禅を組む姿を目の当たりにした。日本では見かけない光景に触れたことで、帰国後、信仰を広めるには新しい取り組みが必要だと考えた。ほかの僧侶たちと和太鼓の演奏集団を結成したり、肉や化学調味料などを使わない「精進カレー」を販売したりするなど、僧侶の型にはまらない活動をしてきた。

 映画制作もその一つで、フランス修行でカンヌを訪れたときから心に秘めてきた計画でもあった。映画制作団体「空族(くぞく)」の富田克也氏に監督を依頼して、自身はプロデューサーとして関わるだけではなく、兄弟子役で出演。脚本はあるものの、ドキュメンタリー性の高い作品に仕上げた。

 作品には、僧侶が喫煙や飲酒をするシーンがあり、宗派内からは「教義にそぐわない」といった反対意見も出た。倉島さんは「現代では、僧侶が聖人君子ばかりとは思われていない。きれいなところばかりを伝える映画では、世の中の理解や共感は得られない」と根気強く説得した。

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 カンヌ国際映画祭への出品に…

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