高機能ポリマーを自在に合成、普及の決め手は日本の研究

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杉本崇
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 小さな分子を真珠のネックレスのようにつなげてつくる高分子(ポリマー)に、狙い通りの機能を持たせる化学合成法「精密重合」が注目されている。日本の研究が普及を後押しし、これまでにない高機能なポリマーが生まれている。

高精細テレビの美しさ、実現のかぎに

 臨場感のある鮮明な映像を楽しめる4K対応や8K対応の液晶テレビ。色の美しさを左右するカラーフィルターという部品では、繊細な色あいを表現するため、特殊な機能を持つポリマーが活躍している。「高精細なテレビのカラーフィルターは、『精密重合』の技術なしには実現できなかった」。このポリマーを製造する大塚化学ケミカルソリューション事業部の河野和浩課長は話す。

 カラーフィルターは、赤と青と緑のごく小さなマスが集まってできた部品。バックライトの白色光を受けて、多様な色を作り出す。高精細テレビではわずかな色ムラも許されない。その品質を支えるのが、精密重合でつくった分散剤だ。色のもとになる顔料にくっつきやすい部分と、周りの液体になじむ部分をつなげて、顔料をより均一に分散させる。京都大の山子茂教授らとの共同開発で生まれた。

 ポリマーとは、小さな分子が繰り返しつながってできた高分子のこと。たとえば、「ポリエチレン」のレジ袋は、「エチレン」という分子がたくさんつながったものだ。この分子同士をつなげる化学反応を「重合」と呼ぶ。「精密重合」なら反応を狙い通りに制御でき、大塚化学の分散剤のように性質の異なる成分をあわせ持つ高機能なポリマーなどを生み出せる。

 化学メーカーのカネカが開発したのは、住宅で窓枠のすき間やタイルの間を埋める新型の充塡(じゅうてん)剤だ。シリコーンを使ったポリマーでできているが、従来のものはポリマーを形作る分子の数がばらばらで、小さいポリマーに汚れが付くと落ちにくくなる課題があった。改良した素材も熱に弱い弱点があった。

 そこで、両端に架け橋になる部分を付けたひも状のポリマーを精密重合でつくった。分子の数がそろっているので、汚れの原因にはならない。しかも、元々は液状でゴムのように柔らかいのに、触媒を使うと空気中の湿気を吸って硬くなる。末端が橋渡しとなり、3次元の網目構造になるためだ。開発を担当したカネカの中川佳樹グループリーダーは「熱や光による劣化にも強く、高性能住宅や自動車の部品に使われ始めた」と話す。

 ポリマーは極めてありふれた物質だ。プラスチックや合成樹脂など、身の回りの多くの物質がポリマーでできている。容器に使われるプラスチックなどでは、分子が数十万個つながっているものもある。

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 ポリマーを合成するための重…

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