(小説 火の鳥 大地編)33 桜庭一樹 お父さんを復活させなくちゃ……

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「やぁ、坊ちゃん。お父さまはいなさるかい?」

 道頓堀鬼瓦にそう笑いかけられたとき、ぼくは背筋がゾーッとした。前の世界の彼が、道頓堀橋から身投げして死んだことを知ってたからだ。あわてて裏木戸から招き入れ、客間に通した。父を起こし、顔を洗わせ、着替えさせ、客間に戻ると、鬼瓦は三味線をやけに重そうに抱えて座っていた。「三田村さん、あたしゃ破産しましてねぇ。いーや、自業自得よ。あんたはなんも言わんでええ。最後に一席聴いてくれはりますか」ペーン、と小気味よく三味線を鳴らし、浪花節を唸(うな)りだした。

「大阪でぇ、生まれぇ、商売をぉ、始めぇ、税金をぉ百万円もぉ、払ったときもぉ、あったぁ……」

 やはりあまり上手(うま)くなかった。ぼくも父も神妙な顔で聴き始めたものの、次第にぼーっとしてしまった。「……この恨みぃ、忘れないぃ。挽肉(ひきにく)にして道頓堀のぉ、泥鰌(どじょう)の餌にぃ、してやろか!」えっ、と顔を上げると、鬼瓦は立ちあがり、三味線を振りかぶって、

「裏切り者め!」

 父もはっと我に返り、両手で頭をかばった。「三田村ぁ、貴様を道連れや! 共に渡るで。道頓堀は三途(さんず)の川やぁ!」と鬼瓦が喚(わめ)き、父の頭に三味線を振り下ろす。ゴスッと鈍い音がした。鬼瓦は笑い声を上げ、裸足で中庭に飛び降り、あっというまに姿を消した。三味線が転がっている。裏に鉄板が仕込まれ、重かった。

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「お、おお、お父さーんっ………

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