「消されるかも」で撮り始めた 監督が見たアリ地獄企業

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上月英興
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 東京の引っ越し会社で「シュレッダー係」へ配転になった30代の男性社員を約3年にわたって追ったドキュメンタリー映画「アリ地獄天国」(土屋トカチ監督)が、今月開かれた山形国際ドキュメンタリー映画祭に出品された。1人の会社員がブラック企業と闘い、復職や解決金を勝ち取る過程を描いている。

 男性は営業職で社内トップ級の成績だったが、2015年に社外の労働組合に入って団体交渉を始めたところ、シュレッダー係に異動させられ、さらに懲戒解雇された。男性は裁判所への仮処分申請や提訴、労働委員会への救済申し立てなどを通じて、解雇の撤回や営業職への復帰を果たし、18年2月に会社側と全面的に和解した。

 作中では月400時間近い労働時間や、営業車の修理代などの給与天引き、賞与20円、「罪状」と記した懲戒解雇の文書を社内で配るなどといった実態が証言や録音記録なども駆使して示される。男性は監視カメラの下で粉じんの舞うシュレッダー係をこなし、合間を縫って抗議のマイクを握るようになる。

 作品は今年7月に完成し、貧困ジャーナリズム賞を受けた。映画館での上映は調整中だが、10月28日午後4時50分から関西学院大図書館ホール(兵庫県西宮市)で上映会が開かれる。

「消されるかも」震える声から始まった

 山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された「アリ地獄天国」の土屋トカチ監督(48)に聞いた。

 ――「罪状」と記した紙で懲戒解雇を公開される、差別的な言葉を浴びせられるなど、引っ越し会社の男性社員の過酷な境遇が描かれています。

 普通は折れちゃいますよね。彼は撮る対象としては難しい、感情が出てこないタイプ。感情が唯一噴き出たのは、裁判所で泣き崩れた時ぐらいです。「仕事中は上の方から自分を見ている」とずっと言っていました。映画を見たDV(家庭内暴力)被害者の方が「つらい気持ちはまともに受け止めると自分が壊れるから、深い水の底に沈めている。全く気持ちがわかる」と話してくれました。

 陰湿な暴力にそうやって耐えている人はたくさんいる。余力があれば、異議を唱えることもできると伝えたかった。ひどい状況を変えるツールにしてほしくて、裁判所や労働委員会の説明を細かく入れました。

 ――「これ以上死ぬな、殺すな」というメッセージが作中にありました。

 強くそう思います。労働基準法は関係ないと言い放つ経営者もけっこういます。引っ越し会社は業績がかなり落ち、支社も閉めたそうです。もちろんこの会社に抗議したいのではなく、人を搾取するような会社はこんな目に遭うという事実を残したかった。経営者にも参考に見てほしいです。

 ――男性社員を撮り続けようと決めたきっかけは。

 彼が入った労働組合「プレカリアートユニオン」の依頼で、復職が決まった2015年9月の記者会見を撮ったのが最初です。復職の日も応援がてら撮りに行くと、会社の人が寄ってきて因縁をつける。彼は「消されるかも」と声を震わす。何かサポートしないと、となりました。

ここから続き

 ――引っ越し会社を巡る話だ…

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