日韓関係の悪化で日本を訪れる韓国人観光客が激減するなか、韓国以外の国からの誘客に力を入れる動きが出始めている。九州は外国人旅行者の半分を韓国客が占めてきただけに、自治体の危機感は強い。とはいえ、ラグビー・ワールドカップ(W杯)の開催地では欧米豪などの客が増え、短期的な対策を見合わせている地域もある。

 長崎県は11月から来年2月末まで、対馬市内を訪れる国内客の宿泊料金を3千円割り引くクーポンを発行する。原資は県予算約5800万円を充てる。熊本地震などの際に国が実施した「ふっこう割」を参考にした緊急対策で、国内から対馬に観光客を呼び込むのがねらいだ。

 対馬市は韓国・釜山から約50キロ。昨年は外国人宿泊者数延べ約35万人の99%を韓国人が占めたが、日本が今年7月に対韓輸出規制を強化したことをきっかけに客が減り始め、9月は前年同月比で9割も減少した。市の担当者は「これまで韓国人客に頼りすぎだった」。

 佐賀県では、8月の大雨の影響で9月初めまでに国内外からの約1万2200人分の宿泊キャンセルが発生し、追い打ちとなった。このため県は補正予算計3100万円を組み、県内を訪れる国内客を対象に長崎と同様の宿泊クーポンを発行する。

 さらに2500万円をかけて中国やシンガポールなどの旅行業者に対しても、佐賀へのツアーをつくるよう働きかける。県の担当者は「日韓関係は先が読めない。韓国への依存度を下げて、多角化しなければならない」と話す。

 反対に、韓国へのPRを強める自治体もある。沖縄県は「緊急プロジェクト」と銘打ち、9月末、ソウルで官民合同の商談会を開いた。韓国の旅行業、航空業者ら約100人に沖縄の新しいホテルや観光の魅力を伝えたという。沖縄は避寒地として韓国客に人気で、本来はこれからがかき入れ時。「韓国人の利用が多い観光施設は、急にやり方を変えられない。引き続き韓国側へのアプローチは必要だ」と担当者は言う。

 一方、ラグビーW杯の開催地では一時的に外国客が増えているため、様子見しているところが目立つ。

 5試合の開催地である大分県では、準々決勝2試合がある10月19、20日、大分市と別府市のホテル稼働率は9割近い。欧米豪からの客が昨年は県内宿泊者の0・7%だったが、今年10月19、20日に限れば15・4%を占めるという。県は「ホテルが埋まっているので、今すぐ韓国客を呼び戻す施策を打つことは考えていない」と説明する。

 3試合がある福岡県も「しばらく様子見」。熊本県も2試合があり、「ホテルはほぼ埋まっている。韓国客が減った時期と重なったのでありがたい」。

 ただ、韓国人に人気の温泉地・別府市のホテル関係者は「欧米人で満室になるのはラグビーの試合前後だけ。今の盛り上がりもW杯とともに終わるだろう。年間売り上げは昨年をはるかに下回る」と話す。

 いずれの県も、中長期的には「韓国以外の国から客を呼び込む施策が必要」との立場で、今後現地商談会を開くといった対策を予定しているという。(枝松佑樹)